BiSHはデビューすると極めて順調に短期間で成功を手にしました。デビュー・アルバム発表後に行われた全国ツアーは軒並みソールドアウトとなるほど、あっという間に大きな人気を獲得したわけです。この当時はまるで知りませんでしたが。

 この短期間での成功は黒幕の渡辺淳之介にしても全くの予想外だったようで、小さなライブハウスから始めて、次第に大きくしていく「長期的なプランで考えていた」にもかかわらず、最初のワンマンから「信じられないくらいバーストしちゃって」、だそうです。

 デビュー盤からこのセカンド・アルバムの間に、メンバーが補充されています。リンリンとハシヤスメ・アツコの二人がオーディションを経て加入しました。オリジナル・メンバーに比べると、この二人は何だか不思議な感じです。とてもアイドルらしくない。

 6人組となってパワーアップしたBiSHですが、このアルバム発表後にはオリジナル・メンバーの一人ハグ・ミィが脱退してしまいます。彼女はモモコグミカンパニーによれば、「個性が強い5人の子どもを見守るやさしいお母さんのような存在」*です。

 すっかりアイドル評論家的な書き方になってきてしまいました。BiSHを始め、WACK所属のアーティストは何かと話題が多いので、下手をするとアイドル好きでない方を疎外してしまうことになりかねません。気を付けねば。

 本作は、BiSHブレイク後の作品なので、新しくBiSHを知った人のために前作の中で人気の高い曲4曲が再録バージョンで収録されました。細部にわたって手が入っていますが、基本的にはほとんど同じアレンジです。重複収録なんてインディーズならではです。

 賛否両論あるでしょうが、デビュー盤も買った私としても丁寧な仕様だと思います。この路線でずっと名曲ばかりのアルバムを作ってみるのもありかもしれません。配信時代ですから意外と違和感なく受容されそうな気がします。

 閑話休題。アルバム全体のテーマは「とにかくエモーショナルです」。「感情を揺さぶるっていうのを意識して作ったので、曲のアレンジでもシンセの音はすごく少なくしてます」。ボーカルも「あまり修正してない」。生々しいバンド・サウンドの出来上がりです。

 サウンド面を主導する松隈ケンタは、アイドルと係わるにあたって、パフュームなどで中田ヤスタカがやっていることをバンド・サウンドでやってみたら面白いんじゃないかと思ったと語っていたことがあります。その話を聞くと、いろいろと合点がいきます。

 このアルバムなどまさにそんな感じです。しっかりとしたバンド・サウンドでエモーショナルなロックが展開していきます。スローな楽曲もありますが、全体に高速ビートにのせてアゲアゲの曲が並びます。アイドルも楽器の一つの位置づけだと言えます。

 メンバーが作詞に係わった曲が13曲中9曲もあります。♪オチンコ、オチンコ♪は違いますが、さすがに等身大の若い女の子たちのリアルな言葉がつまっています。きっとはまる人ははまるでしょう。ここら辺も規格外。何とも立派なアルバムが完成したものです。

参照:BiSH Fake Metal Jacket インタビュー ナタリー、*「目を合わせるということ」モモコグミカンパニー

Fake Metal Jacket / BiSH (2016 Wack)