BiSのことをまるで知らなかったので、BISの黒幕だった渡辺淳之介が「BiSをもう一度始める」と宣言して、誕生したBiSHのことも当時はまるで知りませんでした。しかし、当時のアイドル界ではBiSの存在は結構大きかったようで、BiSHの誕生も大事件だった模様です。

 BiSは新生アイドル研究会の略でしたが、BiSHは新生クソアイドルの略だと言います。BISのファンは研究員、BiSHのファンは清掃員と呼ばれます。となるとより過激な方向に走るのかと思いきや、むしろ音楽勝負的な様相となっているのは面白いことです。

 渡辺はBiSを終わらせたあと、彼のプロダクション会社WACKを軌道に乗せますが、「自分の好き勝手にやるものがないってことに気づいてしまって」、「刺激が足りないね」とBiSをもう一度作ることとしたそうです。音楽を担当する松隈ケンタも「待ってたよ!」と。

 そうして800人以上が参加したオーディションを経て、5人組のBiSHが誕生しました。オリジナル・メンバーはアイナ・ジ・エンド、セントチヒロ・チッチ、モモコグミカンパニーの3人とハグ・ミー、そしてユカコラブデラックスです。

 このうちユカコラブデラックスはデビュー前には脱退してしまいます。結局、このデビュー・アルバムは4人組となっています。しかし、ちゃんと元メンバーとしてユカコラブデラックスもクレジットされています。ここら辺の律儀なところが渡辺WACKのいいところです。

 結成が宣言されたのが2015年1月、オーディションを経てメンバーが決定したのが3月、このアルバム発表が5月。この間、クソまみれのMVも作っていますし、ゲリラ・ライブもやってとてんこ盛りの活動をすでに行なうという、凄まじいまでのスピードです。

 しかし、「シングルでスタートしちゃうと、以降はどんどんシングルを出し続けなきゃいけなくなるんですよ」、でアルバム・デビューです。ただでさえ多作な松隈率いるスクランブルズですから、シングルもアルバムも同じなんでしょう。

 この作品は、アルバム・デビューの利点をフルに活かして、いろんな冒険がなされていて、とても面白いです。冒頭は「スパーク」。WACKのベストで渡辺&松隈が猿岩石のように歌っていたあの曲です。「生っぽいものを目指そう」、「未完成感をわざと出そうと」した曲です。

 続くシングルの「BiSH星が瞬く夜に」は後にライブの定番となる「挨拶代わりの」一曲です。その後は「間にメンバーが作詞した楽曲を挟んで最後は『ストーリー・ブライター』で締めくくる」構成で、この三曲の「ほかの曲はけっこう遊びました」ということです。

 BiSHはメジャー・デビューに際して「楽器を持たないパンクバンド」をキャッチフレーズにしますが、このインディー・デビュー盤はより多様な顔を見せています。80年代歌謡曲のような曲や、アメリカンなガレージ・ロックだったり、エモだったり、スカだったり。

 このチームはバンド・サウンドに徹底的にこだわっているところがいいです。サビはもちろん、イントロやらサビ前やらにカッコいいフレーズ満載ですし、アイナとチッチを中心とした4人のボーカルのバランスもこの頃から素敵です。パフュームのブレイク前のようですね。

参照:ナタリー BiSの呪いとBiSHの希望

Brand-new Idol Shit / BiSH ( Wack)