2008年にインドで大ヒットした映画「シン・イズ・キング」のサウンドトラック・アルバムです。最大の話題は何と言ってもこれ、スヌープ・ドッグの参加です。ハリウッド俳優のカメオ出演に比べればサントラへの海外大物歌手の参加は珍しいです。

 この映画はコメディー・アクションを得意とするアクシャイ・クマールと、トップクラスの美人女優カトリーナ・カイフの二大スターが共演したドタバタ・アクション・コメディーです。よくある筋立てだけに盤石の強さを発揮して、しっかりと大ヒットに結びつきました。

 シンといえばインドにはよくある名前です。特にターバンが特徴的なシーク教徒にはシンという名前がとても多い。インド人の多くは「シン・イズ・キング」というタイトルだけで、シーク教徒を主人公にした映画だと分かるのではないでしょうか。

 ジャケットに写るアクシャイ・クマールのいでたちはシーク教徒のそれです。しかし、本物であれば髭を剃ってはいけない。手入れした髭が仇となって、上映に際してシーク教徒の団体から冒涜だという声が上がってしまいました。何とか和解できてよかったです。

 シーク教徒ですから舞台はパンジャブ州、パンジャブといえば西側諸国で名高いバングラの故郷です。したがって、このサウンドトラックでは迷うことなくバングラ全開となっています。もともとボリウッドではバングラが強いですが、ここではそれに磨きがかかっています。

 その表れの一つがダラー・メフンディの参加です。メフンディはバングラ界のスーパースターの一人で、サントラ中心のインドにおいてミュージック・アルバムが例外的に売れる人です。ですからボリウッドにプレイバック・シンガーとして参加するのは珍しい。

 メフンディの1曲「ブートニ・ケ」はアゲアゲの典型的なバングラ・チューンで一気に盛り上げます。バングラのリズムにテンション・マックスのメフンディのボーカル。映画の成功に大きな貢献を果たしたものと思います。カッコいいです。

 スヌープ・ドッグが参加しているタイトル曲のみはプリタムの曲ではなく、在英インド人シーク教徒によるユニットRDBが手掛けています。しかし、面白いことにこれが一番プリタムらしい曲です。これには主演のアクシャイ・クマールもラップで参加します。ゴージャスです。

 とにかくテンションが高いインド勢に混じって、スヌープ・ドッグがクールにラップする、その対比がいいです。対抗が素人のクマールだったから良かった。通常のシンガーだとギャップがありすぎたかもしれません。それでも戸惑い気味のスヌープ・ドッグが可愛らしいです。

 それに引きずられたのか、これまたUKインディアンの女性ラッパー、ハード・カウルも一曲参加しています。これもバングラ調。明らかにバングラ調でないのは、カトリーナがピラミッドで踊るシーンの曲のみです。これはお約束の甘い女性ボーカル曲です。

 テーマは明らかにパンジャブです。シークとバングラ。これをパンジャブとは正反対のベンガル出身のプリタムが手掛ける。いつもと違うプリタムの神妙な姿はそこに起因すると思われます。パンジャブ文化へのリスペクトが詰まった面白い一枚だと言えます。

Singh Is King / Pritam (2008 Junglee)