38スペシャルとは38口径のピストルの名前です。物騒ではありますが、いかにもアメリカ的。銃が身近にある環境というのはどんなものなのか、日本にいると到底知ることができないだけに、変な話ですが、ある種の憧れのようなものを感じます。

 そんないかにもアメリカ的な名前をつけたバンド、38スペシャルはサウンドの方もディープ・アメリカのいわゆるサザン・ロックです。それもそのはずボーカルのドニー・ヴァン・ザントはレイナード・スキナードのロニー・ヴァン・ザントの弟です。

 ロニー亡き後はドニーの弟のジョニーがレイナード・スキナードのボーカルに収まりますから、このヴァン・ザント兄弟というのは、音楽性はやや異なるもののオールマン兄弟と並んで、サザン・ロックの顔だと言えます。両兄弟を押さえておけばまずサザン・ロックは大丈夫。

 このアルバムは38スペシャルのデビュー・アルバムです。後に大ヒットを連発するようになる彼らですけれども、このアルバムを語る時には、なぜこのアルバムが売れなかったのかを中心にせざるをえないという不思議なことになってしまいます。

 38スペシャルのラインナップは、ボーカルのドニーとギターのドン・バーンズを中心に構成されています。ここに同じくギターのジェフ・カーリシ、ドラムにスティーヴ・ブルッキンズとジャック・グロンディン、そしてベースのケン・リオンズ。計6人組です。

 ツイン・ドラムにツイン・リード。いかにもアメリカンです。サザン・ロックとくればツイン・ドラムによる迫力サウンドが似合います。ツイン・リードによる絡みもサザン・ロックには欠かせない。スライド・ギターも大活躍しています。もうこれだけでサザン・ロックそのものです。

 こんな布陣で、生きのいい楽曲ばかりを演奏しているわけですから、売れなかったのが本当に不思議です。時は1977年、レイナード・スキナードの大ブレイクでサザン・ロックへの注目が集まっていた時期ですし、このサウンドなのになぜ。

 アルバムのプロデューサーはエドガー・ウィンターとの共演、さらには後にディスコ・クラシックスを連発するダン・ハートマンです。ここは意表をついた人選です。どういうきっかけなのかは分かりませんが、ディープ・サザン・ロックにハートマンは一見すると似合わない。

 しかし、聴いてみると、ハートマンのきらきらポップ感覚は38スペシャルのサウンドを特別なものにしていることが分かります。もともとディープなブルースというよりも、カントリー感覚が強く、サウンドの洗練され具合が高い38スペシャルにハートマンは意外にも相性がよい。

 ハートマンだと思って聴くからか、エドガー・ウィンターのサウンドにも少し雰囲気が似ています。そういえばエドガーも今一つ突出して売れたわけではありません。この当時、こうしたアメリカンなサウンドはどういうわけか商業的には苦戦していたのです。

 しかし、長く愛されるサウンドです。バラードもロックン・ロールもどれもキラキラと輝いていて、ツイン・リードもツイン・ドラムも素晴らしい。なぜ売れなかったのかはさておき、1970年代のアメリカン・ロックを体現するカッコいいアルバムであることは間違いありません。

38 Special / 38 Special (1977 A&M)