「ワン・ショット・ディール」はその名の通り、一発勝負でできたアルバムです。ザッパ先生の作品を管理している奥様ゲイル・ザッパは、「オッカムズ・レイザー」のギター・ソロを聴いた瞬間に、これは発表しなければならないと言い出しました。

 どれだけ早くレコードが出来るかやってみようと促されたのはヴォールトマイスターのジョー・トラヴァース。そこはさすがにマイスターです。すでにあれこれ集めていたテープから、あっという間に一発勝負でアルバムが出来上がりました。

 春の大掃除モードに入っていたザッパ家では、「たぶん20年は開けていない引き出しをたまたま開けてみて」、このカバー写真が見つかりました。こういう偶然が重なるものです。ザッパ先生の存在を感じる出来事です。点と点がつながったわけです。

 本作の中核を担っている「オッカムズ・レイザー」は「ジョーのガレージ第一幕」に入っていた「トード・O・ライン」と同じギター・ソロをフィーチャーした楽曲です。「ジョーのガレージ」では実質3分程度でしたが、ここでは9分を超える長尺版です。

 「オッカムズ・レイザー」、すなわちオッカムの剃刀とはスコラ哲学の有名な言葉で、「説明に際して必要以上に多くを仮定すべきでない」ことを意味します。余計なことを考えるなとシンプルに解釈すると、音楽を聴く際の指針としても使えそうです。

 それはさておき、「インカ・ローズ」のギター・ソロにして、TOTOの「ホールド・ザ・ライン」を引用した珍しいギターは確かにアルバム1枚の中核となるだけの威力があります。「ジョーのガレージ」モードから解き放たれたサウンドが耳に刺さります。

 全9曲中5曲目、ど真ん中に「オッカムズ・レイザー」を置いて、それを囲むように鏤められた楽曲は1973年から1981年までと結構幅広い年代から選ばれています。まずは1974年のツアーから。ナポレオン・マーフィー・ブロックとジョージ・デュークの掛け合いで始まります。

 次いで同じツアーからの音源とスタジオ録音を交えた小品をおいて、「オーケストラル・フェイヴァリット」の頃のアブニュシールズ・エムーカ・エレクトリック・シンフォニー・オーケストラによる、これまた2分程度の小品。このオケは9曲目でも登場します。

 続く「トラッジン・アクロス・ザ・ツンドラ」はプチ・ワズーです。即興で演奏されたベース・ラインが後の「イエロー・スノー」の出だしのベース・ラインになったというコンセプチュアル・コンティニュイティー発現の一曲です。ここまではオッカムの前座になります。

 後半はオッカムの興奮を引きずって、ソロが炸裂します。まずはギター・ワールド誌のために先生がコンパイルしたカセットにも入っていた「ハイデルベルグ」。エイドリアン・ブリューの頃です。次いで「イリノイの浣腸強盗」。スティーヴ・ヴァイ時代です。

 そして「オーストラリアの黄色い雪」。「アポストロフ」収録曲を豪華に展開します。イアン・アンダーウッド在籍時の充実のステージです。最後はまたオケで閉めて、一発勝負は終わります。まるでカセットを編集するような気楽さ。楽しいアルバムです。

One Shot Deal / Frank Zappa (2008 Zappa)