このアルバムも発表年には1979年説と1980年説があります。いずれにせよ、本作はアフリカ70が崩壊過程にあった時期に作られたアルバムであることは間違いありません。アフリカ70とのクレジットはほぼこれが最後です。

 すでにアフロ・ビートを作り上げた盟友トニー・アレンは去りました。代わりというわけではありませんが、息子のフェミ・クティがアルト・サックスで参加しています。バンド解体期ではあるものの気合の入った演奏が繰り広げられます。

 AB両面を使ったにしては短いですけれども、切っ先鋭い「ITT」1曲で構成されたアルバムです。この曲はフェラ・クティの数多い曲の中でもかなり有名です。大統領選挙への出馬を巡ってごたごたしていた時期でもあり、舌鋒が鋭すぎるからでしょう。

 ITTと言えば米国の多国籍企業インターナショナル・テレフォン・アンド・テレグラフ社のことです。フェラはそれをインターナショナル・シーフ・シーフと読み替えて、攻撃を開始します。ITT社にしてみればとんだとばっちりですが、彼らも全く罪がないわけではありません。

 この曲で攻撃されているのは2人。まずは、ナイジェリアのオバサンジョ大統領です。そしてもう一人はITT社の現地代表であり、かつナイジェリア・デッカ・レコードの主宰者アビオラです。アビオラに至ってはジャケットに名前まで印刷されています。

 オバサンジョはカラクタ炎上の責任者であり、フェラの母親を死に至らしめた憎き敵です。すでに1979年の民政移管によって政治から足を洗っていましたけれども、そんなことは関係ありません。どうせ後に復活もするわけですから、まだまだギラギラしていました。

 アビオラはフェラの印税をだまし取っていたことに加え、カラクタ事件以後はオバサンジョ政権に媚びをうるためにフェラを干し上げようとした人物です。♪泥棒♪ですし、♪ドブネズミ野郎♪ですし、♪下種野郎♪です。

 1981年のフェラのスピリチュアル体験では、ベッドをともにしていた妻の一人アデウォンジョに死んだ母が乗り移って突然叫び出します。部屋に入って来ていたオバサンジョとアビオラの生霊?に向かって出ていけと叫んだということです。

 それくらいこの二人はフェラにとっての宿敵です。ナイジェリアの悪いところをすべて代表する二人、フェラの身に降りかかったあらゆる災難の元凶がこの二人です。外国企業による搾取の象徴もアビオラが一身に担います。そうしてITT社にも攻撃が向かいます。

 バンドは崩壊過程にあったとは信じられない白熱の演奏です。しかし、以前のアフリカ70とはグルーヴ感が少し違います。やはりトニー・アレンの不在は大きく、アフロ・ビートはずいぶんとすっきりした調子になっています。フェミのサックスの音も新しい。

 フェラとしても気合の入っていた時期です。情念が渦巻き、パワーが漲っています。新生アフリカ70はアフリカの大地を感じさせますけれども、より先鋭的で都会的なサウンドになってきました。これはこれでフェラの傑作の一つでしょう。

I.T.T. / Fela Anikulapo Kuti & Afrika 70 (1979 Kalakuta)