エルヴィス・コステロはデビュー前からバート・バカラックのファンだったそうです。長年の夢がかなっての共演です。直接のきっかけは、映画「グレース・オブ・マイ・ハート」のために曲を共作したことだそうで、そこから一気呵成にアルバムまで仕上げました。

 コステロにとっては自然なことなのかもしれませんが、パンク時代からコステロを聴いている私としてはとにかく驚きました。もちろんバート・バカラックの名前は知っていましたし、その音楽に親しんではいましたが、それはサントラとしてのバカラックに過ぎませんでした。

 バカラックのようないわばイージー・リスニングに分類される音楽は特にパンク以降のロックの世界とは対極にありますから、洋楽ファンとしてはその存在は全く別世界でした。そもそもバカラックがまだ生きていたということにすら驚いたわけです。

 コステロの音楽遍歴は多種多様であるのは分かっていましたが、パンクのイメージを引きずっている私などからすれば、この二人のコラボは全く異質の音楽が融合するようなものです。というような心持ちで、怖いもの見たさに買ってみたのがこのアルバムです。

 驚くべきことに、これが素晴らしい。コステロはいつも通りのコステロですけれども、その歌が見事にバカラックのサウンドにマッチしていて、コステロがさらに一皮むけたように感じます。これほど相性が良いとは思ってもみませんでした。

 二人は「グレース・オブ・マイ・ハート」のための「ゴッド・ギヴ・ミー・ストレンクス」を共作した後、そのファイナル・ミックスを聴きながら、コステロがバカラックに「もっと曲を作りましょう」と提案したのだそうです。バカラックは即座に承諾しています。相思相愛です。

 二人の曲作りは順調に進み、多くの曲はどちらが主導権を握ったというよりも、以心伝心での共作です。ただし、「ディス・ハウス・イズ・エンプティ・ナウ」と「ザ・ロング・ディヴィジョン」はバカラックが曲を、コステロが詞を提供しています。この2曲は私のフェイヴァリットです。

 レコーディングはバカラックが指揮する24人編成のポップ・オーケストラを中心に行われました。このアレンジがこのアルバムの性格を決定づけています。ロック、ましてやパンクとはまるで毛色の違う、ポップスの王道となる上品な演奏です。

 アトラクションズのスティーヴ・ナイーヴの他に、ジム・ケルトナー、ディーン・パークス、ルー・ソロフ、デヴィッド・スピノザといったミュージシャンも参加していますが、彼らもバカラックの色に染められているように感じます。それほど緻密なバカラックです。

 収録された楽曲は、バカラックの手によって、これまで以上にコステロ節が濃くなっています。一皮むけたボーカルとともに、このアルバムはとてもコステロらしい作品になっています。と同時にバカラックらしさも全開です。コラボの理想ともいえる結果でしょう。

 60年代らしくもあり、90年代らしくもある。二人は「オースティン・パワーズ」でも共演しますが、あのレトロ・フューチャーな感覚がこのアルバムを特徴づけています。極上のポップスは時代を超えて生き続ける。この作品もいつ聴いても麗しいです。

Painted From Memory / Elvis Costello with Burt Bacharach (1998 Mercury)