オーロラの写真をあしらったジャケットには、ヒンディー語を模したレタリングで「ノルディック・ラーガ」と書かれています。インドと極光、極めて遠いこの二つの要素を見事に融合したサウンドを展開するのが、このノルディック・ラーガです。

 このプロジェクトは、スウェーデン出身のパーカッション奏者ダン・スヴェンソンと、同じくスウェーデン生まれのサックス奏者パール・モベルグの二人組に、インド南部バンガロール出身のバイオリニスト、ジョートサナ・スリカントが加わったことで誕生しました。

 そこにスウェーデン中西部のヴァルムランドの伝統音楽にルーツを持つバイオリン奏者マッツ・イーデンが加わって、ノルディック・ラーガが完成します。音楽をそのままバンド名にしていますから、命名に際しては何の苦労もなかったそうです。

 スウェーデンでは、1970年代以来、スウェーデンの民俗音楽が復興されているそうで、イーデンのみならずスウェーデン側の3人はいずれもこの動きに影響を受け、伝統的な音楽を得意とする奏者となりました。北欧の伝統音楽とは何だか意表を突かれた思いです。

 インドの古典音楽は北インドのヒンドスタニと南インドのカルナティックに大きく二分されます。スリカントはこのうちカルナティックのヴァイオリン奏者です。彼女は音楽家であった母によって5歳の頃から古典声楽を学び始めます。

 しかし、6歳の時に出会ったバイオリンに魅了されると、バイオリンのトレーニングも受けることとなり、わずか9歳で初めてソロコンサートを開催するに至ります。早熟の天才です。彼女はバイオリンを極めるために西洋古典音楽も学んでいます。

 というわけでノルディック・ラーガは、北欧スウェーデンの伝統音楽とインドのカルナティックを融合させた極めてユニークな音楽を奏でるグループです。決して頭から入ったわけではなく、お互いが感性のレベルで共鳴し合って始まっており、そのあり方は理想的なものです。

 演奏される曲は、スウェーデンとノルウェーの境界地帯のフォーク・ダンス、同じく境界地帯のうちフィンランドからの移民の多い地域の伝統曲、スウェーデンで人気のポーランド民謡、南スウェーデン出身のバイオリニスト、オーラ・ランスに捧げるワルツなどの伝承曲など。

 加えてメンバーが作曲した曲が3曲あり、うち1曲はスリカント作です。スリカントがこのグループにもたらしたものは、カルナティックの旋法(ラーガ)のみならず、コナッコルと呼ばれる口ドラムも含みます。即興の種を提供するボーカルはユニークな味わいを増しています。

 インドとスウェーデンのバイオリン2本に管楽器とパーカッションの4人が奏でるサウンドは見事に国境を越えて融合しあっています。ドローンと華麗なソロを交互に演奏するパートなど鳥肌ものですし、スウェーデン組にインドが乗り移った気配が聴こえると嬉しくなります。

 サウンドはユニークではありますが、決して耳に馴染まないものではありません。私はアイリッシュのチーフタンズを思い出しました。ユーラシアの伝統音楽の世界は思った以上につながっているのだということを実感することができるサウンドです。

Nordic Raga / Nordic Raga (2018 Riverboat)