このアルバムを一言で紹介すると、エルヴィス・コステロがもっとも嫌っているアルバムだということになります。コステロの9作目は、前作ほどではないにせよ、そこそこヒットもしたにも関わらず、ぞんざいな扱いをされてしまっています。

 しかし、間が悪いことに、このアルバムは私が初めてリアルタイムで買ったコステロのアルバムでもあります。コステロ作品は知人が持っていたので、自分で買おうという気にならなかったのですが、いよいよ誰も買ってくれなくなって自分で買いました。

 そうなると自然に何回も聴きますし、やや暗めながらも私の好きなコステロ節が全開なものですから、コステロのアルバムの中では結構思い入れがあります。いつもの通り、佳曲揃いですし、決して本人が否定するような作品ではないと思います。

 コステロ本人が嫌っている理由は、どうやらこのアルバム制作時の私生活の落ち込み具合と関係がありそうです。確かに覇気がないと言いますか、ぽっかりと穴が開いたような風情がアルバム全体を覆っています。本人とすれば思い出したくないのかもしれません。

 しかし、音楽というものは聴き手があって初めて完結するものです。その聴き手とていつも元気いっぱいで充実しているわけではありません。その私生活のごたごたとやらは、ちょうどその頃の私ともシンクロするものでした。ベスト・マッチと言ってよいでしょう。

 そんなわけで、私にはとりわけ愛おしいアルバムです。情けないコステロこそが私のヒーローでした。わざわざカバー曲に「アイ・ワナ・ビー・ラヴド」を選ぶ気持ちのありようがいいです。♪ぼくは愛されたいだけなんだ♪...。

 ところでこの曲にはグリーン・ガートサイドがコーラスで参加しています。グリーンはこの当時一世を風靡したスクリッティ・ポリティその人です。斬新なリズムで一味違うソウル感覚による傑作「キューピッド&サイケ85」の1年前です。

 さらにシングル・カット曲「ジ・オンリー・フレイム・イン・タウン」にはホール&オーツのダリル・ホールが参加しています。当時のホール&オーツと言えば、全米1位を連発していた頃、乗りに乗っていた時期です。そこはかとないコーラスがカッコいいです。

 ブルー・アイド・ソウル系の二人を選んだところがコステロらしい。自身の歌唱も本作ではブルー・アイド・ソウル系と言ってよいと思います。情けない気分の時にはとりわけソウルが似合いますから、コステロの大きな引き出しから引っ張り出されたのでしょう。

 プロダクションは前作をヒットさせたクライヴ・ランガーとアラン・ウィンスタンレーのコンビです。コマーシャルな成功を熱望していたコステロですから当然です。アトラクションズとのコンビネーションもバンド感覚が横溢していて、コステロの良い面を引き出していると思います。

 ジャケットに写るコステロの姿はいつになく小さくて、なんとも自信がなさそうです。いつになく内向的なサウンドです。とはいえ、コステロ基準でという意味に過ぎず、基本はわがままな音作りです。そこは当然としておいて、ほんの少しの内向が感じられる、そういう作品です。

Goodbye Cruel World / Elvis Costello & The Attractions (1984 F-Beat)