エルヴィス・コステロの7作目のアルバムは、彼の作品の中で最高傑作にあげる人もいる渾身の作品です。多くの雑誌で1980年代の名盤の一つに挙げられていて、その評価はもはや不動のものです。しかし、チャート的には全英6位、全米30位どまりでした。

 この作品は「プロデューサーにビートルズのエンジニアだったジェフ・エメリックを起用した、ヴァラエティ豊かな作品」であると紹介されます。帯の宣伝文句としてはかなり地味ではありますが、特大ヒットではないことから熱心なファンに向けて放たれた言葉としては秀逸です。

 まず、5作目までプロデューサーだったニック・ロウから離れました。前作はカントリーに挑んだ企画アルバム的要素が濃厚でしたから、本格的なアルバムとしては初めてのニック・ロウ離れです。ロウの比較的単純なせーので録音するスタイルが間尺に合わなくなりました。

 前作のナッシュビル録音で音を録り重ねてミックスして完成させるスタイルを経験したコステロは、今回、ジョージ・マーティンのもとで録音技術を習得したエメリックを起用して、新たなスタイルでアルバムを完成させました。グレードアップしたコステロの登場です。

 もう一つの特徴、「バラエティ豊か」については、カントリーがテーマの前作を始め、これまでのコステロのアルバムは一言で表せる音楽的な特徴がありましたが、本作は集大成的な形でさまざまな曲調の楽曲が集められ、さらに録音の仕方も幅広いということの表現です。

 だからと言ってアルバムのまとまりがないわけではなく、ヴァラエティ豊かな、という点で見事にまとまっています。コステロの歌声にも自信がみなぎっており、プロダクションにも随分と自身で気を配った自負が感じられます。渋さがスタンダードの域に達してきました。

 本作では初めて歌詞が内袋に印刷されました。「言葉が主張し過ぎるのを避ける」ために、すべての歌詞をつなげて区切りなく並べたという往生際の悪い行いではありますが、その皮肉に満ちた歌詞の世界がきちんと提示されたのは結構なことです。

 本作で私の最も好きな曲「ザ・ロング・ハネムーン」の歌詞の中に、♪これからの幸せには返金保証はついていない♪という一節があります。このフレーズはコステロの歌詞の特徴をよく表しています。とにかく皮肉っぽい。マニー・バック・ギャランティーなんて普通使わない。

 この曲と続く「マン・アウト・オブ・タイム」、さらに前作のタイトルとなった「オールモスト・ブルー」の流れが大好きです。一時期、この部分ばかり聴いていたのですが、結局全曲よく覚えていますから、それなりに何度も通して聴いたことが分かりました。

 主張しすぎないストリングス・アレンジメントも秀逸ですし、初期のパンク色は完全に払しょくされ、ポップ・マエストロとしてのコステロがこのアルバムで完成したと言ってよいと思います。どの曲ももはやスタンダードの域に達しています。

 ジャケットはピカソにならった画風で「蛇使いと寄りかかるタコ」が描かれています。どこまでも一筋縄ではいかない人です。その意味では精神はパンク。ですが、次なる目標は商業的な成功となりました。この作品が思ったほど売れなかったのは残念この上なかったようです。

Imperial Bedroom / Elvis Costello & The Attractions (1982 F-Beat)