ザ・ポリスは「シンクロニシティー」で人気実力ともに絶頂に達した直後に活動を停止してしまいました。メンバーの次の活動に大いに関心が集まる中、スティングは何とジャズ・ミュージシャンばかり集めてソロ・アルバムを発表します。

 「ブルー・タートルの夢」がそれです。アルバムは当然のように世界中で大ヒットしました。その後、スティングは大掛かりなワールド・ツアーに出ます。「ブリング・オン・ザ・ナイト」はそのツアーの模様を収めた2枚組のライブ・アルバムです。

 同じタイトルのドキュメンタリー映画が制作されていますが、そちらはワールド・ツアー初日までを追ったものですから、音源としては本作が続編になります。その意味では同映画に「ブルー・タートルの夢」と邦題をつけたのはむしろ分かりやすい。

 ツアーは1985年2月にニューヨークでお披露目した後、5月にパリ、2か月の休みをはさんで8月から日本、アメリカ、ヨーロッパと5か月の長きにわたりました。本作は5月のパリから2曲、残りは12月のヨーロッパ各地の音源をまとめたものです。

 ジャケットには「スティングとブルー・タートル」とフランス語で書かれている通り、「ブルー・タートルの夢」に参加したミュージシャンによるバンドです。かなり豪華なメンバーです。まず、ドラムはウェザー・レポートのオマー・ハキムです。

 ベースにはマイルス・デイヴィス・バンドにいたダリル・ジョーンズ、ウィントン・マルサリスやディジー・ガレスピーなどとの共演で知られるキーボードのケニー・カークランド、サックスには異種格闘技ではお馴染みのブランフォード・マルサリス。

 ついでにコーラスの二人もローリー・アンダーソンを始め、実力者との共演歴があります。以上、その世界では名の知れた若いミュージシャンばかりです。そうしたメンバーとともにスティングはとにかく嬉しそうに歌いまくっています。

 曲は、「ブルー・タートルの夢」から6曲、ポリス時代から7曲、カバー曲、シングルB面曲、新曲が1曲ずつとなっており、スティング劇場であることがよく分かります。しかし、スティングと彼を支えるブルー・タートルたちというよりも、バンド色が濃い。

 中村とうよう氏は、「これを聞くと、スティングがジャズのミュージシャンたちとやりたくなったのもうなずけるような気がする」と書いています。「演奏の姿勢そのものがジャム・セッション指向なのだ」。そこにバンド感が色濃く漂う秘密があります。

 ここで聴かれる音楽はスティングの楽曲をジャズにアレンジし直したというわけではなく、ごくごく自然に若いジャズ・ミュージシャンがロックでジャムっているというもの。結果、ポリスとはまるで異なる姿ながら、力強く喜びに満ちた音楽が流れてきます。

 この後、ポリスは新作制作のために一度集まるのですが、もう後戻りはできませんでした。それほどにこのバンドの経験はスティングにとって大きかったということです。なお、本作でスティングはグラミー賞を獲得しています。グラミー好みの音でもありました。

参照:ミュージック・マガジン1986年8月号

Bring On The Night / Sting (1986 A&M)