1960年代の終わり頃、大胆なブラス・セクションを導入した一群のロック・バンドがアメリカから現れました。中学や高校でブラス・バンドに馴染みが深い日本ではブラス・ロック、「血沸キ肉躍ル!ブラス・ロック」と呼ばれました。

 代表的なバンドと言えばシカゴとこのブラッド・スウェット&ティアーズが双璧です。この作品はそのBS&Tのセカンド・アルバムにして、7週連続で全米チャートを制し、グラミー賞最優秀アルバムも受賞した代表作中の代表作です。

 変なバンド名ですけれども、これはウィンストン・チャーチルの名言で上海グレートモーメンツでも有名な「ブラッド、トイル、ティアーズ・アンド・スウェット」からとったジョニー・キャッシュの曲名から拝借するというややこしいつけられ方をしたものです。

 BS&Tは、ロック・シーンの重要人物アル・クーパーの構想によって誕生しました。構想が先にあり、その実現のためにミュージシャンが集められ、バンドが出来上がりました。しかし、ファースト・アルバム発表後には早々とクーデターが起こります。

 本作品はクーデターによって創設者のアル・クーパーがバンドを去り、代わりに「カナダのレイ・チャールズ」ことデヴィッド・クレイトン・トーマスをボーカルに迎えて制作されたセカンド・アルバムです。2枚目にしてバンド名をタイトルとして新たな旅立ちを印象付けています。

 バンドはアルと共にバンドを起こしたボビー・コロンビーのドラムとスティーヴ・カッツのギター、そしてベースというロック・コンボに、ボーカルと5人のホーン奏者の計9名からなる大所帯です。ホーン陣はキーボードも担当しています。

 まだフュージョンという言葉もクロスオーバーという言葉もない頃に、「ロックとジャズが結婚」した音楽を奏でるBS&Tの音楽はそれはそれは新鮮だった。と後追いの私は何度も聞かされたものでした。それだけ、ロック・シーンに大きな衝撃を与えたということでしょう。

 アルバムは格調高くエリック・サティのジムノペディアの変奏曲で始まり、同じ曲で終わります。その間には、モータウン、ビリー・ホリデイ、ローラ・ニーロ、ブルース・ジャムなど、バラエティに富んだ曲が詰め込まれます。それをホーン全開で展開するわけです。

 コロンビーによれば何の脈絡もないそうで、メンバー各自がやりたいことを持ち寄ったようなものなのでしょう。その中でトーマス作の「スピニング・ウィール」が日本でもウィークエンダーの前身番組に使われたりして大ヒット、尾崎紀世彦や西城秀樹もカバーしています。

 「荒々しいヴォーカルに緻密なアレンジと豊かな即興性がブレンドされた、ブラス・ロック史上最高傑作」とされる傑作ですが、当時、中村とうよう氏は毛嫌いしていました。改めてアルバムを聴いてみて、恐らくは彼らがインテリなのがその理由なんだろうと思い当たりました。

 トーマスのボーカルがワイルド・カードとなりますが、BS&Tの音楽は極めてクールで頭先行型です。それがいい味を出していますが、とうよう氏には嫌われる所以。これはバンドにとっては勲章みたいなものです。60年代末のロック界らしい話題でした。

Blood, Sweat & Tears / Blood, Sweat & Tears (1968 Columbia)