ジャザノヴァの名前はジャズとボサノヴァから来ているとばかり思っていましたが、そうではありません。ノヴァは文字通りの意味で「新しい」でした。ニュー・ジャズ、もっとかっこよくヌー・ジャズです。クラブ・ジャズ、フューチャー・ジャズに新しい呼び名がもう一つ生まれました。

 ジャザノヴァはドイツのフューチャー・ジャズ・レーベル、「コンポストの最重要にして最強アーティスト」です。彼らはベルリンを拠点に活動する6人組です。もとはクラブでプレイするDJ3人と、スタジオでのプロダクションを手掛けるアーティスト3人の集合体です。

 ベルリン市内のクラブ・ミュージックのコンピレーションを作ることになったことが、6人が共同で作業するきっかけになったそうです。そして、彼らの最初の12インチ・シングルはコンポストと提携したジャザノヴァ・コンポスト・レコードから1997年に発表されました。

 その「フェダイムズ・フライト」は大きな話題となり、「クラブ・ジャズ好事家のハートを射止めてしまいました」。彼らは、あちらこちらから求められるままに、その後も12インチを発表したり、さまざまなリミックスを手掛けたりとどんどん活躍していきます。

 ただし、アルバムはなかなか発表されず、日本にいるとその活動はとても分かりにくいものでした。評判は聞こえてくるけれども、なかなか音が届かない。リリースの要望が強かったのですが、アルバムがないのでライセンスが「見送られる傾向にあった」そうです。

 しかし、ついにソニーがコンポストとレーベル契約を結んだことで、いよいよジャザノヴァが日本国内で作品をリリースすることになりました。日本の独自編集によるシングル発表曲のコンピレーションであるこの作品です。ジャケットはリミックス集と対になっています。

 本作には「日独音楽的交友条約締結」の言葉が踊り、それを象徴する曲として、日本のクラブ・ミュージックの先端にいるキョウト・ジャズ・マッシブ、福富幸宏、カームによるリミックスが、それぞれのオリジナルと同居するという丁寧な編集がなされました。

 収録曲は、1997年のデビュー・シングルと翌年の2枚目のシングルからの全曲、都合6曲に加えて、外部レーベルのコンピレーションに提供された「ジャルダン・シークレット」と「コーヒー・トーク」の2曲を加えた8曲、プラスリミックス3曲の計11曲です。

 ジャザノヴァのサウンドは、少しレトロでとても繊細なジャズを、ヒップホップで解釈したようなサウンドです。そこにはラテンを始めとする、だだっ広い音楽の世界を遊んできた喜びが凝縮されているようです。とても気持ちがいいです。

 このサウンドが生演奏によるのではなく、ほとんどがプログラミングとサンプリングで出来ているとはにわかに信じがたいです。70年代や80年代にコンピューター音楽に血が通うかとかなんとか議論していたことが遠い昔のようです。

 日本勢のリミックスは比較的大人しめです。オリジナルからそれほど大きく離れてはいませんが、一様にタイトに綺麗にまとめていて、意外なことにジャザノヴァの野性味が際立つ結果となりました。これも私には発見でした。

The Single Collection 1997-2000 / Jazzanova (2000 Jazzanova Compost)