今度のCD帯は「当時の僕たち本来の姿がこのアルバムさ」とポジティブに始まりますが、結局、「シングルは売れたけど、アルバム自体ももっとヒットしてもいいはずだと思ってた」と情けない発言が続いています。これもグレン・ティルブルックの言葉、スクイーズらしいです。

 その言葉通り、本作からは4曲がシングル・カットされ、そのうち2曲は全英2位の大ヒットとなりました。アルバムもチャートインすらしなかった前作よりは売れましたけれども、45位どまりですから、ティルブルックの落胆ぶりも分かります。なまじシングルが売れたばかりに。

 しかし、そこは大手A&Mです。セールス・プロモーションのために4色の別ジャケットでも発売されました。驚くべきことに紙ジャケ再発にあたってこの別ジャケが復刻され、計5枚のジャケットが添付されるという快挙がなされました。さすがはストレンジ・デイズです。

 ティルブルックならずとも、もっとアルバムが売れても良いはずだとレコード会社も思ったことでしょう。前作に比べてもスクイーズのポップ・センスは一層磨かれていますし、サウンド面でも特にジュールス・ホランドのキーボードなどニュー・ウェイブらしい工夫が深まりました。

 「いま振り返ると時流を意識しすぎていたような気もするけれど、当時としてはとても満足のいくアルバムだった」ともう一人の主役クリス・ディフォードが語っています。前のめりのビート感に時流だったニュー・ウェイブ感が出ています。

 プロデューサーは前作でエンジニアを務めたジョン・ウッドとスクイーズが行いました。ジョンはフェアポート・コンヴェンションやニック・ドレイクとの仕事で有名な人ですから、ジョン・ケイルのようにことさらにパンクを要求するような人ではありませんでした。

 しかし、面白いことに、たとえば冒頭の「スラップ&ティクル」のサウンドなど、前作よりもジョン・ケイルっぽい。ケイルと一旦仕事をして、その無理矢理パンクではないケイルの側面を吸収したのだと解釈しておきます。全体にケイルの影がほのかに見える気がします。

 レノン・マッカートニーの再来、ディフォード&ティルブルックのソングライティングはますます冴えわたっています。2位になった「アップ・ザ・ジャンクション」は、労働者階級の若者が結婚して子どもが生まれるも離婚して一人になるまでの悲喜劇が饒舌に描写されていきます。

 かなりキンクスを感じる曲ですけれども、飄々としたスクイーズの魅力を凝縮した代表曲としてイギリスでは最も有名なスクイーズの曲になっています。イギリス以外では受けないだろうなと思わせるところがスクイーズらしい。事実そうなりましたし。

 もう一曲の2位は「クール・フォー・キャッツ」、タイトル曲です。これまた語り調の饒舌な曲で、カラオケで歌うと気持ちが良さそうです。その他の曲も正統派ブリティッシュ・ポップ・ロックの旗手としての面目が躍如しており、前作を大いに発展させた傑作集です。

 妙なシンセで存在感を示しているジュールス・ホランドはやがてテレビのパーソナリティーとして有名になっていきます。それもまたスクイーズらしい。彼らのポップ・マエストロぶりにはテレビが似合うんです。エンターテインメント性が高い。面白いバンドです。

Cool For Cats / Squeeze (1979 A&M)