このジャケットは忘れられません。ファンク・ミュージックなるものを過不足なく表現していて、もうジャケットを見ているだけで、ねとねとしたファンキーなリズムが聴こえてきます。初めてサウンドを聴いた時でさえ、ずっと前から知っているような気になったものです。

 それほどにこのジャケットのインパクトは大きい。今ではあまり見ませんが、LPジャケット写真集なるものが何種類も出版されていて、オハイオ・プレイヤーズの「ファイアー」と「ハニー」はエロティック部門になくてはならない作品でした。

 オハイオ・プレイヤーズは、1960年代の初めからさまざまな名前で活動してきたバンドです。彼らが本格的に活躍するのは1970年代に入ってからで、特にマーキュリー・レコードに移籍してからの快進撃は目を見張るものがあります。

 この作品はオハイオ・プレイヤーズの6作目、マーキュリー移籍後2作目のアルバムです。シングル・カットされた「ファイアー」ともども全米チャートを制しました。R&Bチャートだけではなく、ポップ・チャートも制するという、大ヒット・アルバムです。

 「ファイアー」はもちろんアルバムの冒頭に置かれています。サイレンから始まるというサービスぶりで、ねっとりしたコーラスによる導入部を経て、♪ファーイアー♪と歌われる曲は名曲に違いありません。緩さと力強さが同居したリズムがたまりません。

 ライナーで鈴木啓志氏が書いている通り、ポップ・チャートを制したにも関わらず、ポップ・チャートに媚びたところは微塵もありません。まさに「稀有な例を持つ作品なのだ」。それが証拠に日本で売れたという記憶は全くありません。

 この時点でのオハイオ・プレイヤーズは7人組です。ドラム、ベース、キーボード、ベースにホーンが3人。ほぼ全員が歌っており、がやがや歌うコーラスが秀逸ですし、彼ら自身もボーカルに強い自信を持っていたと思われます。インスト部分が意外と短いんです。

 もちろん「ファイアー」だけではありません。「ファイアー」と対になっているファンク・チューン「スモーク」がB面冒頭を飾っている他、「ランニン・フロム・ザ・デヴィル」と「ホワット・ザ・ヘル」という悪魔と地獄のちょっと変わったファンクもあります。

 「自由の魂」と「イッツ・オール・オーヴァー」はお約束のスロー・ナンバーです。ねばねばのリズムと髭の天使のコーラスにいやらしいボーカルを加えた味わい深い曲で、前者はソウル・チャートでは6位に入る異例のヒットとなっています。

 オハイオ・プレイヤーズのファンク・サウンドはここで完成を見ています。アース・ウィンド&ファイヤーのような乾いたサウンドではなく、Pファンクよりも人がよさそうなファンクは、オーガニックな緩さがたまりません。このビートはひたすら気持ちが良い。

 しかし、よくもこんなアルバムが当時の全米ポップ・チャートで1位になったものです。まだ黒人音楽がメインストリームではなかった時期に、こんな黒光りするアルバムが1位になったことは米国社会が少しは寛容になったことの証左でしょう。

Fire / Ohio Players (1974 Mercury)