フランク・ザッパ先生は、マザーズ・オブ・インヴェンションを始めた頃から、大人数によるエレクトリック・オーケストラを編成することを構想していました。それが実現したスタジオ作品が「グランド・ワズー」であり、その後に行われたツアーでした。

 このツアー・バンドは「マザーズ・オブ・インヴェンション/ホット・ラッツ/グランド・ワズー」と呼ばれていますが、恐らく長すぎるからでしょう、オランダ・ハーグのライブでは単に「ホット・ラッツ・オーケストラ」とされています。

 バンドは「グランド・ワズー」の制作後に改めて編成されたため、メンバーは半分くらいしか重なっていません。それに演奏している曲も異なるので、単純に「グランド・ワズー」のツアーというわけではなく、別プロジェクトと考えた方が良いでしょう。

 ツアーは1972年9月10日にハリウッドで始まり、ヨーロッパを回って9月24日にボストンで幕を閉じるまで、計8回のパフォーマンスを行いました。このアルバムは最後のボストンでのコンサートを収録した2枚組ライブ・アルバムです。

 バンドの編成にあたって、ザッパ先生はまず「ランピー・グレイビー」で共演したトロンボーン奏者ケニー・シュロイヤーに声をかけます。ケニーはミュージシャン・ユニオンの名簿を片手に電話をかけまくってメンバーを集めました。

 その結果、総勢20名からなる「結成前からビートルズのようにビッグになることはないことが分かっているバンド」が結成されました。20名のうち吹奏楽器を扱うメンバーは12名。ボーカルもダンスもないロック界では異例のバンドの誕生です。

 ザッパ先生の指揮のもと、全員が譜面と指揮棒をにらみながら演奏するスタイルですから、ツアーに出る前に入念なリハーサルが行われました。極めて複雑な音楽で、とてもチャレンジングな経験だったと、トランペットのマルコム・マクナブが書き残しています。

 コンサート・プログラムは毎回ほぼ同じでした。演奏された曲目は「レザー」収録の楽曲の他に、「グランド・ワズー」からタイトル曲、「ワカ/ジャワカ」から「ビッグ・スウィフティー」、「200モーテルズ」から「ペニス・ダイメンジョン」などです。

 「レザー」からは何と言っても30分を超える超大作「グレゴリー・ペッカリー」が特筆されます。ここではインストゥルメンタル作品として、熱い演奏が繰り広げられています。「アプラクシメイト」と並んでツアーの見せ場だったことでしょう。

 20人による演奏はさすがに迫力はあります。しかし、ザッパ先生は「テープの質がそれほど良くなかった」ためリリースしなかったと話したことがあります。「おみやげみたいなもんだ」と言う意味はよく分かります。それなりに素晴らしいのですが、サウンドが少し物足りない。

 大人数でのヨーロッパ・ツアーはお金ばかりかかってしまい、結局、わずか半月のツアーでバンドは解散します。その1か月後には、先生、今度は人数を半分に絞ってプチ・ワズーとしてツアーに出ることになります。ちょっと寂しい大ワズ―でした。
 
Wazoo / Frank Zappa (2007 Vaulternative)