ジャケットに写っているのは人のよさそうな男性6人、ムジカ・アンティクヮ・ケルンです。彼らは1973年に結成された古楽器によるアンサンブルです。日本では古楽器よりもピリオド楽器と言われることが多い。昔の楽器を使って発表当時の音を再現しようとする試みです。

 そういうわけですから、彼らは17世紀と18世紀の音楽を専門としています。古楽器で新しい音楽を奏でてみるのも面白いと思いますが、それではピリオド楽器の考え方を否定してしまうことになるのでしょう。作曲者が想定していた音を出すことが大切。

 ムジカ・アンティクヮ・ケルンはラインハルト・ゲーベルを中心にケルン音楽大学の学生によって結成されました。室内合奏団として、アルヒフ、英語読みだとアーカイヴ・レーベルに多数の録音を残し、2007年に30年の歴史に幕を閉じました。

 この作品は1984年に発表された作品で、新録3曲に既発のバッハを加えて編まれた編集盤です。1984年といえばCD勃興期です。クラシック界はこぞってCD向けに新旧取り混ぜた作品を出すようになった時期でした。

 本作品はバロック・フェイヴァリットと一般に呼ばれている通り、17世紀から18世紀にかけて活躍した4人の作曲家の作品を一枚に同居させたアルバムです。多分に啓発的な意味合いもあるのでしょうし、ムジカ・アンティクヮ・ケルンの紹介もかねてのことでしょう。

 一番収録時間が短いのにジャケットにも唯一曲名が書かれているのは、ヨハン・パッヘルベルの「カノンとジーグニ長調」です。パッヘルベルのカノンは、さすがはセンターをはるだけのことはある人気曲です。

 ここでの演奏はチェンバロも入っていますし、随分賑やかにバイオリンがきらめくポピュラーなアレンジが素敵です。プログレッシブ・ロック的とでも言える攻めた感じがいいです。デビューして10年、ムジカもまだまだ若い。

 次いでヘンデル、ヴィヴァルディと新録が続きます。いずれも「2つのバイオリンと通奏低音のためのソナタ」です。トリオ・ソナタですから、2本のバイオリンとチェンバロによる演奏ですが、それにしては結構派手です。

 組み合わせられているのはJSバッハによる「管弦楽組曲第二番ロ短調」です。ほぼアルバムの半分を占めています。いかにもCD向けの編集ですけれども、これが何ともぴたりとはまっています。まるでつぎはぎのイメージはありません。むしろアルバムの中心です。

 バッハは編成が大きくなっていて、吹奏楽器も出てくるのでムジカ・アンティクヮ・ケルン全員参加でしょう。アンサンブルである以上、参加していない人がいるのは聴いている方としても居心地が悪いですから、これがあって良かった。大きなお世話ですが。

 この時代の室内楽をピリオド楽器で演奏されると、往時が偲ばれます。いかにもドイツのお城のサロンでかつらを被った人々と一緒に聴いている気分になります。穏やかに満ち足りた空間は日本で言えば茶室でしょう。一服たてて耳を傾けるのが良いかもしれません。
 
Pachelbel : Kanon & Gigue, J.S.Bach, Handel, Vivaldi / Musica Antiqua Köln (1984 Deutsche Grammophon)