現代音楽と言えばカールハインツ・シュトックハウゼンです。私の現代音楽初体験ももちろんシュトックハウゼンです。ストラヴィンスキーやシェーンベルクから現代音楽と言われることもありますが、私にはシュトックハウゼン以降が現代音楽です。

 この作品はドイツのヴェルゴ・レコード50周年を記念して発表されたボックス・セットのうちの一枚です。初期のシュトックハウゼン作品、電子音楽を本格的に始める前の時期から4曲が選ばれています。

 演奏しているのはこれまたドイツのアンサンブル・ルシェルシェです。1985年に結成された現代音楽を専門とするアンサンブルです。この作品ではクラリネットの岡静代さん、打楽器の西岡まり子さんの名前を見つけることができます。西岡さんは「打楽器トリオ」への客演です。

 1曲目は「コントラ・プンクテ」。文字通り訳せば対位法です。この作品の理念は「個別化された音と時間関係の多様な音響世界の内部で対立関係が徐々に解消されていき、最後には統一された不変のものだけが聴取される」というものです。

 フルートにバスーン、クラリネットにバスクラ、トランペットにトロンボーン、ピアノにハープ、バイオリンにチェロがそれぞれ高低のペアとなります。そして楽器がだんだん減っていき、最後にはピアノだけが残る。純粋な音一つ一つだけで構成される曲で頭が冷やされてきます。

 続く「ルフラン」は面白い曲です。この曲にはわずか2枚のスコアしかありません。円形に描かれた楽譜のシートと細長い可動式の透明プレートで構成されています。そのプレートの位置によってさまざまなバージョンが出てくる仕掛けです。

 この曲ではヴィブラフォン、ピアノ、チェレステを中心にいくつかの鳴り物と声による音が鳴ると、その残響が消えていくまでを丁寧に追いかけています。東洋的なイメージが強く喚起されるサウンドで、瞑想にピッタリです。これまた頭が冴えてきます。

 3曲目の「ツァイトマッセ」は「時間の度量」と訳されます。分かりにくいですが、「テクニカルな計測手段(時計、調律)による物理的な測定値を、感覚による一連の質的な測定値によって拡張するのである」ということです。音楽家の相対的な確定不可能性に対応します。

 シュトックハウゼンの言葉は一々分かりにくいですが、メトロノームのリズムに対する肉体のリズムと考えれば何のことはない、オーティス・レディングやミック・ジャガーが圧倒的な迫力でやっていることではないでしょうか。それを譜面に起こすのは大変でしょうが。

 最後の「打楽器トリオ」はピアノと6台のティンパニで奏でられます。シュトックハウゼンは「全ての個別要素-異なる特性を持つ個々の音-の同等化」を達成しようとしたと語っています。音をつながりではなく点として扱い、それを構成していくというもの。

 反復などの単純な構造は一切出てきません。そこがシュトックハウゼン作品の魅力です。これを見事に演奏しきるアンサンブル・ルシェルシェの力量も凄い。頭に靄がかかった時にはこうした凛として孤立している音の群れを聴くのが最高の薬です。

参照:「シュトックハウゼン音楽論集」清水穣訳 現代思潮新社

Karlheinz Stockhausen / Ensemble Recherche (2009 Wergo)

演奏者は違いますが、「時間の度量」です。