ジャケットに写っているのは、ドゥルッティ・コラムことヴィニ・ライリーと彼のガールフレンドのポーリンです。どこにも名字が書かれていませんが、この顔、この声、状況証拠から元ペネトレイションのポーリン・マレイであるとして先に進みます。

 このアルバムはドゥルッティ・コラムの幻の4作目とされていた作品です。録音されたのは1983年のことで、オリジナルの形で陽の目をみたのはようやく2012年になってから。実に30年ぶりの発掘ということになります。

 この頃、ベルギーのクレピュスキュールとイギリスのファクトリーは仲良く入り乱れていました。ヴィニはこの作品をベルギーで制作し、実体クレピュスキュール、名前はファクトリーのファクトリー・ベネルクスから出すつもりでカタログ番号も取得しています。

 制作に参加したのは、ヴィニ本人に加えて、西海岸から大陸にわたってきたタキシード・ムーンのブレイン・レイニンガー、ハープ奏者のアン・ヴァン・デン・トルースト、ドラムにはアラン・ルフェーブルなどベルギー寄りの面々です。

 このレイニンガーの参加が良くなかった。彼がヴィオラで参加した曲「デュエット」の出来が良すぎたんです。そのことが、ファクトリーのオーナー、トニー・ウィルソンにアルバム全体をこの路線で作り直すことを思いつかせ、実際そうなりました。「ウィズアウト・マーシー」です。

 ウィルソンは、ドゥルッティ・コラムのデビュー作の衝撃が、2枚目、3枚目と薄らいできたと考え、大きな変化が必要だと感じていた矢先でした。この作品ではまだ弱いと思ったのでしょう。しかし、こちらの方もなかなかの意欲作でした。

 ヴィニは、ギターの他にベースとピアノを弾いています。そして、クレジットにはサックスしかありませんが、トランペット奏者も参加していますし、一曲ですがハープの音色も聴こえてきます。ドラムのブルース・ミッチェルが交代したことも大きい。

 作品名は「ショート・ストーリーズ・フォー・ポーリン」。ポーリンが歌うためのアルバムかと思ったのですが、ポーリンが歌う曲は1曲のみ。実は曲のタイトルを順番に並べて眺めるだけでポーリンとの恋物語が浮かび上がってきます。アルバム・タイトルはそういう意味でしょう。

 曲ごとに楽器編成も異なりますし、ギターの弾き方もいつもの流麗なアルペジオだけではなく、アライレ的なタッチも交えます。ベースもいい。ヴィニの持ち味である、薄暮の似合う儚いサウンドはそのままに、それを損なわない方向で総じて力強さが増しました。

 ロックン・ロール嫌いのヴィニだからといって、何もクラシカルにもって行かずとも、このアルバムをそのまま出せばよかったのに、ウィルソンも余計なことをしたもんです。私は断然こちら派です。「デュエット」は素晴らしいですが、この中にあってこそ映えると思います。

 ボートラのインタビューをぼーっと聞いている中で、ヴィニがジャンゴ・ラインハルトが好きだったけれども、自分のギターが似てきたので聴くのを止めたと語るエピソードが気になりました。何だか可愛らしい話です。頑張っていきってます。

Short Stories For Pauline / The Durutti Column (2012 Factory Benelux)