ニューデリーからタジ・マハールのあるアグラまでは車で約3時間の道のりです。少し前までは、途中の休憩所に立ち寄るといつも蛇使いが座っていました。しかし、神秘的な様子はまるでなくて、普通のおっさんなので、全くそそられませんでした。

 昔はデリーの街中にも普通に蛇使いがいました。レッド・フォートあたりには大勢いましたから競争が激しく、それなりに伝統的な衣装をつけたりもしていて、なかなか壮観でした。ただ、まるで元気がない蛇をみていると、生物保護のために禁止になるのも当然だと思いました。

 コブラはあちこちにいますけれども、蛇使いと言えばインドです。最盛期には数十万人の蛇使いがいたと言いますから凄い。驚異の国インド。というわけで、本作品はインドのミュージック・トゥデイのアメイジング・インディア・シリーズの一枚として発表されました。

 蛇使いが使っている楽器はビーンと呼ばれる笛です。ひょうたんに二本の笛を刺したものでリードは竹です。一本は長い筒でドローン、もう一本は短めでこちらには穴があけられてそこを押さえることで音階を吹くことができます。

 蛇使いがこの笛を吹くと、コブラが籠の中から身を起こし、笛の音に合わせて体をくねらせる。それを見て喜ぶわけです。喜ぶ人は。しかし、蛇には外耳はないため、空気中の振動を音として感じる能力は著しく低いので、音に合わせているわけではないそうです。

 地面の振動やら笛の動きに反応しているそうですから、笛の音そのものはギミックだということです。とはいえ、鳴り物が入らなければこんなに盛り上がらなかったことは確実です。やはり音楽の力は偉大です。

 この作品は、「スネーク・チャーマー」、蛇使いと題され、蛇使いの音楽ばかりを集めた作品です。もちろんビーンが中心ですけれども、タブラを始めとする打楽器との合奏となっています。街中の蛇使いはそんなゴージャスではありませんでしたから、本場のものなんでしょう。

 制作にあたったのはウプマニュ・バノットというまだ若い音楽家です。彼はアメイジング・インディア・シリーズを数多く手掛けています。彼の活動はテレビのジングルやバックグラウンド・スコアが中心で、映画音楽にも係わりだしています。今後の活躍が期待されます。

 ビーンの楽しい音色はなかなか聴かせますけれども、蛇使いと言われなければ蛇使いの音楽だとは分かりません。とはいえ、チープでシックなサウンド・スケープが北インドの埃まみれの空気感をもたらしてくれるのも事実。この大衆性がいいです。

 お手軽にインド風味を満喫するには良いアルバムです。古典音楽ほど複雑でなく、ボリウッドほど現代的でない。ちょうど良いインドです。エキゾチック・インディアと言いたいところですが、ここはやはりアメイジング・インディアがぴったりきます。

 ところで、蛇足というわけではないでしょうが、エレクトロニック・ミックスが2曲収録されています。こちらはビーンの音色すら電子的に処理されていて、渾身のテクノ・トラックです。もはや蛇使いらしさはどこにもありませんが、インド・テクノもなかなか捨てがたい。

Snake Charmers - Amazing India / Upmanyu Bhanot (2008 Music Today)