ジャケットに映っているのがアラン・ドロンだとは気づきませんでした。アラン・ドロンといえば私の世代には世界の美男子の象徴でした。さすがにこの写真のドロンは美しいです。ザ・スミスのジャケットはどれもカッコいいですが、これは格別です。

 前作発表後、ツアーを成功させたザ・スミスですが、マネジメントのごたごたがあったり、ベースのアンディー・ルークが薬物問題で一時バンドを追放されたりと、いつものモリッシーの舌禍に加えて、ややこしいことがたくさんありました。

 しかし、そんな中でも先行シングルとして「心に茨を持つ少年」、「ビッグマウス」と立て続けに質の高い楽曲を発表します。ただし、ザ・スミスはシングルがあまり売れないアーティストです。アルバムをじっくり聴かれるタイプのバンドなんでしょう。

 そしてこれがその待望のアルバムです。ラフ・トレードとの確執で発表が半年以上遅れてしまいました。何かとややこしいザ・スミスです。CD帯には「全英アルバムチャート首位獲得!」と書いてありますが、2位どまりでした。半年遅れが響いたと言われています。

 それでも、この作品はザ・スミスの最高傑作と言われることが多い作品です。初々しいデビュー作、音楽の幅を広げた2作目を経て、アルバムとしての完成度が格段に高くなりました。オーケストレーションも使って、かちっとまとまったアルバムです。

 タイトルを聞いた時はびっくりしました。「これはひょっとしたら大変な事件だ。辛辣で過激な皇室批判を込めた、ロック史上空前の問題作」とCD帯に書いてある通りの大事件ではないかと思いました。ピストルズの「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」のような。

 しかし、時代は下っており、さほど大きな問題にはならなかったようです。何も日本から心配することはありませんでした。モリッシーにかかるとどんな内容の歌詞でも美しい。そこが通じたのかどうか、女王陛下も特に気になさらなかった模様です。

 ザ・スミスのサウンドはこのアルバムで一つの完成をみたのだろうと思います。ジョニー・マーのキラキラした輝くアルペジオとモリッシーの綺麗な声の歌唱はこれまで以上に絡み合ってもはや不可分一体となっています。これならネオアコと言われても納得します。

 モリッシーの世界に虜にさせられた人は数多く、本人の文学青年ぶりが油を注ぐのか、ファンのザ・スミス語りは深いです。本作品ではロッキンオンの増井修氏がライナーを書いています。「スミスの作品は一曲残らず救われるべき弱者について歌われている」。

 「スミスが救済しようとする弱者とは主に『男性原理的闘争における敗者』を指している」。「『弱者』こそが正しく美しいのだ」。スミスの世界に強い共感を抱くか、反感を持つかはこの徹底的に非マッチョな世界観に係わっていると言えます。

 本作でもその世界観はさらに研ぎ澄まされていますけれども、サウンドの完成度が高すぎて、前二作ほどはそちらに入り込めないというのが正直な感想です。しかし、その分、ボーカリストとしてのモリッシーを堪能できます。さすがはスミスの最高傑作です。

The Queen Is Dead / The Smiths (1986 Rough Trade)