エドガー・ウィンターは、ソロ・デビュー作「エントランス」を作るにあたって、自分のやりたいようにサウンドを作り上げ、新たな音楽領域を探求していったために、人々とちゃんとコミュニケートできていないのではないかと不安に思った模様です。

 もともとエドガーはロックの道に入るつもりはなかったそうです。しかし、偉大なる兄のマネジャーだったスティーヴ・ポールがエドガーにも興味を示したために、ジョニーに続いてコロンビア・レコードと契約を結ぶことになりました。

 そこでソロ・デビューしてみて、やはり人々とつながることが大切だと思い知りました。少し俗っぽく言えば、要するにもっと売れて多くの人々に聴いてもらいたいと思ったということでしょう。天性のエンターテイナー魂に火が付きます。

 そこでこのアルバムの登場です。エドガーはバンドを結成して、ホワイト・トラッシュと名付けます。デビュー・アルバムはセルフ・タイトルで落ち着きました。ただし、「イントロデューシング・ジェリー・ラクロワ」とボーカリストを立てることを忘れていません。

 ソロ・デビュー作とはバンドのメンバーが全く重なっていません。正確を期すとストリングスの一人エマニュエル・グリーンとジョニー・ウィンターのみが両方に参加しているだけです。そして両方のアルバムともにバンド・メンバーにはウィキペディア・エントリもありません。

 しかし、このアルバムにおけるホワイト・トラッシュの演奏はなかなか素晴らしいです。1970年代初期のロックがまだピチピチしていた時代のサウンドが詰まっていて気持ちが浮き立ちます。これがほとんど無名のミュージシャンの集まりなことに、アメリカの底力を感じます。

 その魅力をうまく引き出したのがプロデューサーのリック・デリンジャーでしょう。マッコイズでヒットを飛ばした後、ジョニーのバンドでプレイヤー兼プロデューサーとして活躍していた縁での参加です。エドガーとリックはこの後ますます密接に関わるようになります。

 ジョニー・ウィンターは今回も1曲だけ、レイ・チャールズでお馴染みのブルース曲「アイヴ・ガット・ニュース・フォー・ユー」でギターを弾いているのみです。ホーンが中心の曲での控えめな演奏ですが、さすがに存在感があります。アルバムでは異彩を放っています。

 アルバムではエドガーとジェリー・ラクロワがリード・ボーカルを分け合います。この二人はサックスも吹き、さらに二人の管楽器を加えて、厚めのホーンがサウンドに艶を与えています。ブルースをベースとしたロックに少しポップ風味が混じる。ジャズは薄らぎました。

 最もエドガーらしい曲が「ダイイング・トゥ・リヴ」です。ピアノ中心のシンプルなバラードはボーカル・ラインがエドガーのトレード・マークです。聴けばエドガーと分かる美しくも切ないメロディーです。ベトナム戦争の最中であることを考えると歌詞も深いです。

 歌詞ではないですが、パティ・スミスが裏ジャケに詩を寄せています。パティは後にリックと曲を共作する仲ですからその紹介でしょうか。「ホワイト・トラッシュ 天使の腕、聖者の顔、ならず者の口、牙を向いたコヨーテ」。アメリカン・ロックの高揚感に溢れています。

Edgar Winter's White Trash / Edgar Winter's White Trash (1971 Epic)