「肉喰うな!」とアルバムを台無しにするコピーとともに日本盤が発売されました。「現世の存在形態を問う、英国の知性スミス」なのに、どうしたことでしょう。この頃、日本の洋楽担当の間では、まだまだパンクの印象が強烈に残っていたことが分かります。

 ザ・スミスはデビュー作で英国ロック界の話題を独占しました。ラフ・トレードはその機を逃さず、本作までの間にシングルB面曲などをまとめた廉価版アルバムを発売します。ここから彼らのディスコグラフィーが分かりにくくなります。

 この作品はザ・スミスの2枚目のオリジナル・アルバムです。この作品に先行する「ハウ・スーン・イズ・ナウ」は彼らのもてはやされぶりが決して誇張されたものではないことを証明します。そして、このアルバムですべてを納得させ、見事に全英1位となりました。

 本作の日本盤には収録された「ハウ・スーン・イズ・ナウ」は、♪ぼくは人間だ、他の人と同じように愛されることが必要なんだ♪の一節が人々の胸をうちました。これほど直截に言葉を紡いで、それが真剣に受け止められるのはジョン・レノン以来ではないでしょうか。

 モリッシーのこじらせた文学青年ぶりはアルバム全編を覆っています。今回はよりアグレッシブに自己の内面を掘り進むというよりも、社会との接点をより深く見つめていっています。そのため、歌詞に描かれた題材がいちいち物議を醸します。

 「ザ・ヘッドマスター・リチュアル」では学校にはびこる暴力が描かれます。校内暴力ではなく教師による暴力です。印象的なリフの「バーバリズム・ビギンズ・アット・ホーム」は児童虐待を歌います。短い歌詞なのに執拗に反復されるリフが逃げ場のなさを表します。

 そして「ミート・イズ・マーダー」は肉食そのものを殺戮だと訴えます。アルバムのタイトルにもなり、アルバムのラストに置かれているということは最も力が入っているということでしょう。菜食主義者の増加にかなり力があった模様です。

 ただし、この頃にはモリッシーの物言いは、ある種の芸のように捉えられていたようにも思いました。またモリッシーが何か言っているということで、報じるメディアもどこか嬉しそうでした。私も社会人になっていて、10代の純粋さを失っていましたし。

 そんなわけでこの作品はこっそりと聴いていたものです。モリッシーのカリスマが重かった。しかし、サウンドは素直に素敵だと思いました。ジョニー・マーの作る曲は、デビュー作に比べるとより多様化してカラフルになりました。

 アンディー・ルークのベースとマイク・ジョイスのドラム、それにマーのギター、ときおりピアノだけのシンプルな楽器編成はそのままに、ギターを重ねたり、効果音を用いたり、音色自体も工夫されています。マーの本領発揮というところです。

 ザ・スミスは徹頭徹尾イギリス的なバンドです。そのこじらせ方が英国的。そのためイギリスでは1位なのに、米国では100位にも入らない。これはある意味勲章です。イギリス的なあまりにイギリス的なサウンドです。

Meat Is Murder / The Smiths (1985 Rough Trade)