ザ・スミスの登場は事件でした。80年代の英国で最も重要なバンドと言われる彼らですから当然です。レコード帯には「25年ぶりに登場した超大型グループ」と書かれています。すなわちビートルズ以来の衝撃だったわけです。

 ザ・スミスはボーカルのモリッシーとギターのジョニー・マーが、ニューヨーク・ドールズのファンクラブを通じて知り合ったことから誕生しました。彼らは、モータウンやロックン・ロール好きで意気投合してバンド結成に至ります。

 1982年のマンチェスターといえば、パンク/ニュー・ウェーブの中心地の一つとして、大きな渦の中にありました。その中での話だと思うと、何だか不思議な気がします。もっともザ・フォールに影響を受けたそうですから、全くシーンと外れていたわけでもないでしょうが。

 すでにギタリストとしてある程度出来上がっていたジョニー・マーと、全く音楽的知識がないモリッシーのコンビは、ドラムとベースを加えてライブを行うようになると、瞬く間にラフ・トレードとの契約に至り、「ハンド・イン・グローヴ」でレコード・デビューします。

 マーのアルペジオを多用するギターと、独特のメロディーに歌詞を詰め込むモリッシーの歌でたちまち人気を博したわけですが、同時に、モリッシーのメディアとの戦いが幕を切って落としました。ここら辺り、彼らが久々にあらわれた別格のアーティストであることを示しています。

 このアルバムは待望久しかったデビュー・アルバムです。この頃にはザ・スミスの人気ぶりはすさまじく、すでに発表されていたシングル曲も収録した本作は、英国では2位となる大ヒットとなり、チャートには33週間もとどまりました。

 モリッシーの描く世界には、自我が肥大して社会と折り合いがつかない人々ばかりが出てきます。抑圧された孤独な自我が、愛を求めて焦燥感に苛まれ、それでも何とか希望を見出そうとする、青春のひとコマを昇華して結晶化したような世界です。

 誰しもが身に覚えのある世界ですから、モリッシーの歌に人生が救われた人も多い一方で、多分に近親憎悪的に毛嫌いする人も多い。誰もの内面にある世界を赤裸々に描いていくわけですから、真面目に耳を傾けると平静ではいられません。

 そんな歌詞の世界をこれ以上ないくらいにサウンドが表現しています。マーのギターは当時あまり見られなかったスタイルで60年代のポップスを彷彿させます。モリッシーの歌を引き立て、寄り添って共に歌っています。ありそうでなかったスタイルです。ネオアコとも違う。

 本作に最後に収録された「サファー・リトル・チルドレン」は実際にマンチェスターであった連続少年少女殺人事件を題材にしています。物議を醸しましたが、厳かな歌詞は遺族の親族を味方につける結果となりました。いかにもモリッシーらしい話です。

 特異なキャラクターでマスコミの寵児となったモリッシーの印象が強烈なために余計な注目を集めましたザ・スミスですけれども、この作品が提示したサウンドはパンクとは違う形で先祖返りして一歩先に進んだ画期的なものでした。

The Smiths / The Smiths (1984 Rough Trade)