演歌とはもともとは演説歌の略でした。自由民権運動の時代に、「政府の言論弾圧からカモフラージュの作として路傍に誕生した」のが演説歌、すなわち演歌です。現在、巷に存在する演歌とはまるで別物で、民謡が土台にある点でかすかに繋がっている程度です。

 この作品は、戊辰戦争の際、討幕派の品川弥二郎によって書かれた、♪宮さん、宮さん♪でお馴染みの「トンヤレ節」に始まり、自由民権運動の壮士達の歌、演歌、さらには社会主義、労働運動からの革命歌などを収録した作品集です。

 薩長土肥から自由民権派、社会主義派と立場は大きく異なりますが、いずれも体制に反旗を翻す壮士ないしは運動家の歌、すなわち「自由希求の歌」だという点が共通項となっています。「明治45年間の歌の縮図である」と胸を張った作品集です。

 もちろん当時の録音が残っているわけではありません。演奏して唄っているのは土取利行、日本の誇るパーカッショニストです。私は彼のパフォーマンスを何回か見ています。そんな彼の作品だからこそ買ってみる気になったというのが本当のところです。

 土取利行は1970年代からフリー・ジャズの世界でドラマーとして活躍していました。私が見たのはデレク・ベイリー来日時のカンパニーでの演奏です。その勢いで、自主制作レコードも買いましたし、彼のソロ公演も見に行きました。自由な、本当に自由なドラマーです。

 その後、土取は日本の古代音楽の研究と演奏に取り組み、銅鐸を鳴らすなど、音の響きに世界を宇宙を探求していきます。彼のパートナーとなったのが梁塵秘抄を甦らせた桃山晴衣、彼女がご意見番としたのが演歌師の添田知道でした。

 知道は演歌の祖といわれる添田唖蝉坊の長男です。桃山没後、残された彼女や知道の肉声テープや冊子資料を渉猟するうちに、「衝動的に桃山の三味線を用いて歌い出した」のが前作と本作に結実したというわけです。

 収録された楽曲は、「トンヤレ節」に続いて、土佐のよさこい節を壮士達が放歌高吟した「書生節」、植木枝盛がひとつとせ節に詞をつけた「民権数え歌」、川上音二郎の「オッペケペ節」、壮士演歌集団「青年倶楽部」の主要メンバーによる演歌。

 そして「足尾銅山労働歌」は労働運動家の永岡鶴蔵の詞に添田唖蝉坊が曲をつけた歌、「嗚呼革命は近づけり」は「インターナショナル」が移入されるまで社会主義革命のテーマとなっていた曲で、メロディーは「ああ玉杯」となっています。

 いずれも民謡や里謡を土台にした演説調の曲ばかりで、奇妙な明るさがしなやかな強さを感じさせます。民衆歌としての力が漲っていて、ヒップホップと精神性においても通底するものがあります。もはやモダンな響きさえします。ロシア構成主義的。

 明治どころか昭和でさえ去ろうとしていますけれども、私の生まれは明治92年、明治が終わって47年目のことです。子どもの頃、この作品に収録された楽曲の中では「トンヤレ節」や「オッペケペ節」、「デカンショ節」などはまだ現役でした。血になっていることに気づきました。

The Song Of Civil Rights Movement At Meiji / Toshi Tsuchitori (2014 メタカンパニー)