「至上最強の女性キーボード・トリオ『アルスノヴァ』が世界進出への飛翔を遂げた記念すべき2nd!!」です。アルスノヴァは1992年にデビュー作を発表した後、ドラムが高橋明子に交代しました。本作は交代後初の作品になります。

 この「トランシ」の発表によってアルスノヴァは海外でも知られるようになり、発表の翌年1995年には米国のプログ・フェスト95に登場するに至りました。日本の数多くのプログレ・バンドの誰もがなし得なかったことをこの女性トリオがやってのけたのです。

 アルバム発表からほぼ四半世紀となる2018年6月3日、吉祥寺のスター・パインズ・カフェにて、CD再発を記念するライブが行われました。しかも、このアルバム発表時のトリオ編成によるライブです。否が応でも盛り上がるというものです。

 アルスノヴァは1991年に再結成して以来、これまで解散したことがなく、しかも熊谷桂子を要に3形態で存続するというややこしいことになっています。その一つとなるこのトリオは1997年10月に脱退した金沢京子が2017年11月に戻ったことで再結成されました。

 凄まじいライブでした。3作目の完全再現ライブということでしたけれども、「キーボード・トリオの最高傑作は2枚目と3枚目だ」と熊谷桂子のMCが入り、このアルバムからの曲も演奏されました。恐らく「トランシ」だと思うんですが、違いますかね?

 金沢京子は戻ってきたミス・リッケンバッカーと紹介されていました。ゴリゴリのベース・サウンドはリード・ベースとも言える演奏で圧倒的な迫力でした。恐ろしい女神にちなんだ格好をしてきたはずが「京劇の人みたいになってしまった」とはご愛嬌でしたが。

 今回、驚いたのは高橋明子のドラムの叩きっぷりです。大きな身振りでどかどか叩くドラムから力強い音が飛び出てきます。やはり生ドラムは違います。CDではどうしてもとらえきれない奥行きのあるド迫力のサウンドです。さすがはカミングアウトした宇宙人です。

 そして、熊谷桂子のキーボード捌きはそれはそれは見事でした。重ねたキーボードを操る姿はライティングによってステージ後ろの壁に影が映ってプログレ中のプログレを演出していました。その流れるような節回しは素敵に映像的で、何度か胸がつまってしまいました。

 そのライブを思い出しながら、アルバムを聴いているわけです。CDに収められた精緻なサウンドに、ライブの迫力を脳内で足し上げていますから、感動も倍増しようというものです。さらにボートラでライブ録音の1曲が加わっているので、最後はきっちり拍手で終わっていますし。

 3枚目に比べるとどうしても分が悪い作品なのですが、私はどちらも甲乙つけがたいと思います。この作品の中では特に「トランシ」と「ノヴァ」の二曲がおすすめです。イタリアン・プログレの壮大さとELPの攻撃性が合わさり、ホラー映画を思わせる映像的なサウンドです。

 プログレは下手をすると大仰になり過ぎて舞い上がってしまいますが、ゴリゴリのリズムでしっかりと根を大地に繋ぎとめて、大輪の花を咲かせたところは見事です。素晴らしいアンサンブルに浸りきって幸せな一日になりました。

Transi / Arsnova (1994 Made In Japan)