1977年2月18日、フェラの拠点となっていたラゴスにあるカラクタ共和国は千人もの完全武装した兵士に取り囲まれました。政府にとって目障りこの上ないフェラですから、約1週間前におこった若い衆と兵隊との些細な小競り合いが絶好の口実となった格好です。

 フェラは司令官の車が見えたので、これで兵士に撤収命令が下るだろうと思って安心したそうですが、何と言うことか、その司令官が陣頭指揮にたってカラクタに兵士たちが突入しました。中にいたフェラの仲間たちを打ち据え、女たちをレイプするという暴虐が行われました。

 フェラの母親は二階から突き落とされ、フェラもフェラの兄もさんざん暴行を加えられました。その上に、カラクタは火を放たれて炎上しました。彼らを含め中にいた人間はみんな病院か拘置所に収容されたということです。

 あろうことかフェラは病院から拘置所、そして裁判所に連れていかれ、暴行を受けたにもかかわらず起訴されました。怒り狂ったフェラはナイジェリア軍の司令官と上級将校を相手取って損害賠償請求訴訟を起こします。

 訴えは1年後に却下されました。調査委員会の結論は、事件は確かにあったが、それは「身元不明の兵士」の仕業によるものだというものでした。それが本作のタイトルになりました。「アンノウン・ソルジャーズ」です。

 フェラはカラクタ炎上後に2枚のアルバムを発表し、この襲撃で「殴られ、暴行され、拷問され、傷ついた者たちの辛い記憶に捧げ」ました。その一枚が「ソロウ、ティアーズ・アンド・ブラッド」であり、もう一枚がこの「アンノウン・ソルジャーズ」です。

 フェラは執拗に♪政府の手品♪を追及します。政府の手品は、赤を青にするし、水を枯れさせるし、電気をろうそくに変える、そして市民への暴力をなかったことにする。圧政というのはそういうものです。日本もナイジェリアのことを言えた義理ではないでしょう。

 事件を報じる新聞記事が埋め尽くすジャケットには記載はありませんが、時期的にみて、演奏はアフリカ70によるものです。やっぱり、このドラムはトニー・アレンのものでしょう。私としては活躍するトランペットがレスター・ボウイではないかと気になります。

 波乱に満ちたフェラの人生においても、最大の事件の一つであるカラクタ襲撃事件を歌った歌としてフェラが名前を挙げているくらいですから、フェラの気合は凄いものがあります。当然、演奏陣も鬼気迫る迫力で迫ってきます。

 重いビートに、うねるテナー・ギター、そしてコール&レスポンス。両面通して1曲、それも30分を超える大作には、アフロ・ビートの粋が詰まっています。事件がモチベーションになっているわけですから、抑えたトーンが返って凄味を増しています。

 曲の最後で、フェラは♪終わったよ、お母さん♪と呼びかけています。この時にはすでにお母さんは亡くなっていたものと思われます。それを考えあわせると、ますますこの曲に込められた思いの強さが響いてきます。凄いアルバムです。

参照:「フェラ・クティ自伝」カルロス・ムーア(菊地淳子訳)

Unknown Soldiers / Fela Anikulapo Kuti & Afrika 70 (1979 Phonodisk Skylark)