これは最後の晩餐でしょうか。ほぼ真っ黒なジャケット写真は凄味を湛えています。ストームジーの意外なことにデビュー作となるアルバムは、堪えられないくらいカッコいいです。さすがに勢いのある人は違います。繰り返しますがカッコいいアルバムです。

 ストームジーはサウス・ロンドンのクロイドン出身のグライムMCです。オリジンはガーナだということですから、怖そうな外見とは裏腹にきっといい人だと私の偏見が語っています。なお、ヒップホップはラッパー、グライムはグライムMCというのだそうです。

 ストームジーは1993年生まれ、17歳の時からユーチューブにアップし始めた動画が注目を集め、21歳の頃にはEPをリリースしています。大学卒業後エンジニアとして働きながら音楽活動を続けていたということで、ストリート出身というわけでもなさそうです。

 ダンス・ビートに乗せて即興のラップを披露するフリースタイルと呼ばれるスタイルの楽曲を全英トップ10に送り込むという史上初の快挙を成し遂げたストームジーには、あのアデルがロンドン公演で彼のファンだと広言したことでも注目を集めます。

 英国発のヒップホップとも言えるグライムは、底堅い人気を得ているものの、なかなかメジャー・シーンでブレイクするに至らなかったわけですが、自らを「グライムの子」と称するストームジーは、このデビュー・アルバムで初登場1位を記録しました。

 さらに英国のグラミー賞に当たるブリット・アウォードで最優秀レコード賞を獲得し、グライムを一気にシーンの中心に押し上げました。チャートまわりの新記録には事欠きませんし、まさに歴史を作ったアルバムであるわけです。

 このアルバムを全面的にプロデュースしたのは、アデルを手掛けたフレイザー・T・スミスです。さらにムラ・マサ、サー・スパイロ、EYといった若手のグライム・プロデューサーを交え、さまざまなシンガーを含め、数多くのアーティストが演奏に参加しています。

 面白いところではストームジーのお母さん、「100バッグス」で愛に溢れたスポークン・ワードを披露しています。ジャケット写真に見られるように、グライムの世界は一人ではなくて、ある種のコミュニティーのようになっている模様です。

 とにかくストームジーがしゃべりまくっています。言葉数が極めて多い。そのMCでUKダンス・ミュージックらしい練られたビートと対決しています。演奏とMCは一体となるというよりも対決です。そこのところはフリースタイルの人らしいと思います。

 ほとんどアカペラな「21ガン・サリュート」も含めてギャングスタ的なMCが中心ですが、パート1と2がある「ブラインディッド・バイ・ユア・グレイス」などは、ラップ・スタイルではなく、若手のMNEKやラリー・リッチーをフィーチャーして熱い歌ものになっています。

 言葉を聞き取れないのがもどかしいですが、極上のトラックに力強いMCが絡んでいる様を聴いているだけで、新たな歴史が刻まれていく場面に立ち会っているという感動に包まれます。アデルに続く、イギリス発の台風の目となるかもしれません。

Gang Signs & Prayer / Stormzy (2017 #Merky)