ジョン・レノンはビートルズ・フィーバーが巻き起こる中で、「僕たちは今やイエス・キリストより有名だ」と発言し、大いに世間を炎上させました。1966年3月の英国のイブニング・スタンダード紙のインタビューを受けての発言でした。

 特にアメリカの保守地帯での怒りは頂点に達し、ビートルズはあちこちで火あぶりにされ、磔にされてしまいます。もちろん本人ではなく、人形やレコードでしたが。そのうちでも最も有名な焚書写真がこのアルバム・ジャケットの写真です。

 もちろん少年が持っているレコードは差し替えられていて、オリジナルではビートルズの「ミート・ザ・ビートルズ」でした。ユートピアの前作が「ミート・ザ・ユートピア」であったことを考えあわせると、一貫性があると評価せざるを得ません。

 写真はほのぼのした雰囲気ですが、込められた怒りの質量はとても大きなものがあります。その質量を受けて、このアルバムにはトッド・ラングレンには珍しく、極めて政治的なメッセージが込められています。今回のテーマは「怒れる子どもたち」です。

 アルバム・タイトルはレーガン政権下での右旋回をストレートに表現したものです。米国のレーガン大統領、英国のサッチャー首相はロック界からとにかく攻撃を受けるキャラクターでした。毀誉褒貶の大きな指導者です。

 ユートピアはビートルズへのトリビュートとなった前作発表後、それほど日をおかずに本作に取り掛かり、ほぼ完成させていましたが、レコード会社は政治的な姿勢を良しとせず、発表を躊躇しました。まあ、どうせあまり売れないだろうし、というのもあったのでしょう。

 そこでユートピアはライブで聴衆に対してレコード会社に圧力をかけるよう呼びかけます。それも奏功したのでしょう、結果的に半年ちょっと遅れて本作がリリースされることになったという事情があるそうです。当時の世相が偲ばれます。

 これまでユートピアのアルバムは毎回何か特徴がありました。プログレだったり、パワー・ポップだったり、そのほとんどは音楽スタイルに関わるものでした。それが本作では社会の右傾化に対する反対声明ということになったと理解できます。

 相変わらずポップでキャッチーな曲ばかりで占められているアルバムながら、政治的な主張を反映して、トゲトゲしたトーンが感じられます。「オンリー・ヒューマン」という名バラードも収録されていますが、いつもよりピリピリしています。

 オージェイズのカバー曲も「フォー・ザ・ラヴ・オブ・マネー」と皮肉っぽい曲ですし、レイ・ブラッドベリの焚書小説「華氏451」なんていう曲まであります。まとまりのあるかっちりとした曲作りは4人の息もぴったりで、秀逸なコーラスにも磨きがかかったしっかりした作品です。

 しかし、ユートピアには誰もこんな主張を期待していなかった模様です。これがボブ・ディランやニール・ヤングであれば違ったのでしょうが、ユートピアの青年の主張は不発に終わり、チャート・アクションもさっぱりでした。難しいものです。

Swing To The Right / Utopia (1982 Bearsville)