ペット・ショップ・ボーイズの帝国主義時代のアルバムです。ポップ・ミュージックの真髄を理解していたので、何でもできると思い込んでいた時代のアルバムだという意味です。結局、これが彼らのアルバム中一番売れたといいますから、帝国主義万歳です。

 この作品を制作するにあたって、ニール・テナントとクリス・ロウの二人には明確なコンセプトがありました。それは、いきなりエクステンディッド・バージョンをアルバムに収録してしまうというものです。その代わりシングルは短くする。逆転の発想です。

 4分間のポップ・ソングを書くことが染みついてしまっていたと考える彼らは、そこから解放されることに興奮した様子です。さらに、アルバムに収録される曲は全曲がシングルであるというコンセプトも同時に採用しています。

 その結果、全6曲中「アイ・ウォント・ア・ドッグ」を除く5曲がシングル・カットされています。もっとも「アイム・ノット・スケアード」は彼らではなくパッツィー・ケンジットのエイス・ワンダーによるシングルとなっています。それはそれでシングルには違いありません。

 また「オールウェイズ・オン・マイ・マインド」はエルヴィス・プレスリーのカバー曲で、アルバムよりずっと前にシングルのみでリリースされ、見事全英1位に輝いてます。ここでは当初予定していた同じエルヴィス・カバーの「イン・マイ・ハウス」とのカップリングとされています。

 この頃、彼らはダスティー・スプリングフィールドはもちろん、ライザ・ミネリとも共演していますし、フランク・シナトラもスタジオに来る予定だったといいますから、およそ若者らしくない柔軟なテイストを発揮しています。いいですね。

 例外となった「アイ・ウォント・ア・ドッグ」はフランキー・ナックルズにリミックスを依頼しており、その結果が素晴らしかったので収録したそうです。ハウスのゴッドファーザーとの相性はもちろん最高です。何故かあまりそう言われませんが、彼らもハウスと言えばハウスです。

 さらに「イッツ・オールライト」は、彼らがシカゴ・ハウスのコンピ「アシッド・トラックス」に見つけたスターリング・ヴォイドの名曲中の名曲のカバーです。トレヴァー・ホーンのプロデュースで、じっとりと切なく攻めてきます。

 今回もプロデュース陣は多彩です。全6曲なのに、当時ブイブイ言わせていたトレヴァーの他に自身も含めて6組の名前が記載されています。こだわりぬいた丁寧な音作りをしていることがそんなところからも分かります。

 アルバム中最も目立つのは「ドミノ・ダンシング」でしょう。彼ららしい哀愁のメロディーをキャッチーに響かせる曲で、こういう曲がどのアルバムにも存在することが彼らの持ち味です。特に日本ではこの手の曲が人気でした。

 アルバムのコンセプトは明快で、他との差別化も図られていますが、前作ほどは先鋭的ではなく、ハウス・ビートが落ち着いた雰囲気を漂わせる、どっしりしたアルバムになりました。エレクトロニクスはよりこなれてきて、貫禄のポップ・アルバムとなりました。

Introspective / Pet Shop Boys (1988 Parlophone)