トッド・ラングレンズ・ユートピアはステージに立つ前にデビュー・アルバムを発表しました。まるで試しにやってみた感じでしたから、本当に続くのかどうか危惧しておりましたが、しっかりツアーも実施して、バンドとしての実体がしっかりと立ち現われました。

 ユートピアの1年ぶりの新作はライブ盤です。デビュー作からここまでの間にトッドはソロ・アルバム「未来神」を発表していますが、実はその半分にユートピアのメンバーが参加しています。それもあってのライブ盤なのでしょう。スタジオ盤だと区別がまだつきにくい。

 この作品に収録されたステージは1975年8月のものです。観客の拍手や手拍子、歓声もしっかり聞こえる正真正銘のライブ録音です。さすがはプロデュース業の達人だけに、録音は見事です。この当時のライブ盤としてはかなりしっかりした録音です。

 バンド・メンバーはトッドを入れて全部で6人。後にトッドの右腕となる機械技術にも長けたキーボード奏者ロジャー・パウエルが初めて参加しました。前作のすぐ後に、トッド以上に目立っていたフロッグの代わりに入っています。

 同じく後のユートピアを支えるドラムのジョン・ウィルコックスもここがデビューです。トッドは次のアルバムまでに、この二人を除く全員を解雇してしまいます。そういう事情ですから、これが6人編成最後のアルバムになってしまいました。

 アルバムはA面がユートピアとしての新曲披露です。長尺の曲が3曲、いずれも前作を踏襲したプログレ的な大曲です。ただし、トッド本来の持ち味であるポップさがやや強く出るようになってきました。喜ばしいことでもあります。

 最初の曲「アナザー・ライフ」は仏教的な輪廻転生に基づく「他生」を意味しています。ここからアルバム・タイトルが引っかかって出てきたと考えればよいのでしょう。ジャケット絵がいかにも極楽的な雰囲気を醸していて、これが他生なのかもしれませんね。

 B面には「ウエスト・サイド物語」から「何か起こりそう」と、ザ・ムーヴのヒット・シングル「カリフォルニア・マン」のB面曲「ドゥ・ヤ」の2曲がカバーされています。前者はツアー後半にようやくものになったと嬉しそうにトッドが書いています。

 そして「未来から来たトッド」から「ヘビー・メタル・キッズ」と、トッドの代名詞とも言える「たった一つの勝利」がセルフ・カバーされます。特に「たった一つの勝利」はいつもライブの締めに演奏していたそうで、複雑なスタジオ盤サウンドとは違う盛り上がりが嬉しいです。

 キーボード奏者が3人、6人中5人がボーカルをとれるという贅沢なバンド構成です。特にロジャー・パウエルのムーグ・シンセは大活躍しています。トッドの眼鏡にかない、生き残っただけのことはあります。彼は高校時代以来というトランペットまで披露しています。

 プログレとポップが程よく混ざり合ったタイトな演奏が素晴らしいです。器用貧乏なところのあるトッドですけれども、ここではアルバム全体が一つにまとまって、ロック・バンドらしい熱いアンサンブルが眩しいです。人気の高い作品だけのことはあります。

Another Live / Todd Rundgren's Utopia (1975 Bearsville)