「哀しみの天使」という邦題は頂けません。本作からの最大のヒット曲「イッツ・ア・シン」の邦題としてもあんまりです。アルバム・タイトルは直訳すると、「いや、ほんまのところ」みたいな感じです。「実際のところがペット・ショップ・ボーイズや」と大阪弁が似合います。

 ペット・ショップ・ボーイズの二枚目のアルバムは、彼らにとっては大いなる自信作です。ニール・テナントは、この作品は他の作品と相性が悪いけれども、間違いなく自分たちの成功の絶頂を記しているものだと語っています。

 前作と異なり、本作ではさまざまなプロデューサーを起用して、自らの思いのままにアルバム制作を進めています。前作発表後にツアーを行わず、曲作りにたっぷりと時間を使ったおかげで、今回は音楽的にもより大胆な作品になりました。

 本作後にも予定されていたツアーをキャンセルしてプロモーション活動に精を出します。「現代ポップ・ミュージックには何が必要かという秘密を握ったと感じていた」そうで、やりたい放題の「帝国主義時代に突入した」時期でした。

 アルバム制作にあたっても、まずは「二人だけのデート」などで有名な一世代上の人気歌手ダスティー・スプリングフィールドとのコラボで「とどかぬ想い」を制作します。この曲はアース・ウィンド&ファイヤーの「ブギー・ワンダーランド」の作者アリー・ウィリスとの共作です。

 当初は色よい返事のなかったダスティーでしたが、デビュー作が成功したことで、馬の骨状態から脱してコラボが実現します。素敵なボーカルを得て、可愛らしい曲になりましたが、残念ながら1位はリック・アシュトレーの「ネバー・ゴナ・ギヴ・ユー・アップ」に阻まれました。

 さらに「イット・クドゥント・ハップン・ヒヤー」はエンニオ・モリコーネとの共作です。別の曲のオーケストラ・アレンジをお願いしたところ、断る代わりに曲を書いて送ってくれたのだそうです。詞をつけて送り返すも返事はなかったそうです。何だか可愛らしいエピソードです。

 このようにテナントとクリス・ロウの各楽曲解説はエピソード満載で面白いです。私が最も共感したのはヒット・シングル「レント」の歌詞解説です。そもそも♪あなたを愛してる...あなたは家賃を払ってくれる♪という皮肉の上にも皮肉な歌詞です。

 テナントは、「接続詞があるとするならば、バットでもビコーズでもなく、アンドだ」と語っています。養ってもらっているという主従関係があるわけではなく、駄目な人生なのかどうか自問しながらも、安楽な暮らしを送っている女性。一筋縄ではいきません。

 最大のヒット曲「イッツ・ア・シン」はシングル・カットしないのは正気の沙汰じゃないとレコード会社に言われてシングルにしたところ、見事に一位になりました。こんなキャッチーな曲はポップスの歴史の中でもそうあることではありません。素晴らしい曲です。

 エレクトロニクスによるオーケストラ・サウンドを駆使して、それまでのシンセ・ポップの世界を大きく広げ、先鋭的であると同時に「哀しみの天使」とつけたい気持も分からないではない大衆性も獲得した見事なアルバムです。

Actually / Pet Shop Boys (1987 Parlophone)