長らくご無沙汰していましたが、リマスター決定盤が発表されたということで、ペット・ショップ・ボーイズのデビュー作「プリーズ」を入手することにしました。昔はそれほど熱心に聴いていた気はしないのですが、どの曲も馴染み深い気がします。彼らのマジックです。

 ペット・ショップ・ボーイズとなる二人、ニール・テナントとクリス・ロウは1981年にロンドンで知り合うと、ほどなく曲作りを開始します。よほど気が合ったようです。そして、新曲ができるたびにロンドンのカムデンにあるスタジオでデモを作るようになります。

 当時、テナントはポップ雑誌「スマッシュ・ヒット」の記者をやっていましたから、業界人と言えば業界人です。ザ・ポリスにインタビューするためにニューヨークを訪れた際に、彼が憧れていたプロデューサーのボビー・オーランドに話をつけて本格的なキャリアがスタートします。

 ボビーとともにシングル「ウエスト・エンド・ガールズ」を制作して発表したのが1984年のことです。その後しばらくしてボビーの元を離れ、メジャー・レーベルEMI傘下のパーロフォンと契約することに成功し、このデビュー・アルバムが制作されていきます。

 彼らが選んだプロデューサーはスティーヴン・ヘイグ、ピストルズの黒幕マルコム・マクラレンなどとの仕事を気に入っての採用です。当初EMIは懐疑的だったために、試しに「ウェスト・エンド・ガールズ」のニュー・バージョンを作らせてみることになりました。

 ご存じの通り、この曲は1985年10月に発表されると結果的に英米両国で1位となった大ヒット曲です。めでたくアルバム作りにゴー・サインが出され、無事にこのデビュー・アルバムが完成します。アルバムも英米でトップ10入りする大ヒットを記録しました。

 「ウエスト・エンド・ガールズ」は、テナントによれば、ラップの元祖となったグランドマスター・フラッシュの「ザ・メッセージ」に触発されて書かれたそうです。英国アクセントでメロディーに乗るように書き上げたという不思議なラップです。グライム?

 この決定盤には、36ページに及ぶブックレットが添付されており、その中で二人が各楽曲について実に詳細に解説を加えています。その中では「ラヴ・カムズ・クイックリー」は車の中でEMIのお偉方に聴かせて契約を即決させたとか、エピソード満載です。

 曲作りに関して、たびたび出てくるのがフィルミーという単語です。要するに映画をイメージして作られた曲が多い模様です。映画に着想を得た曲も多いですし、サウンド面でも映画のワンシーンのようにするために効果音を使ったり。

 ペット・ショップ・ボーイズはシークエンサーやエミュレーターなどを駆使して作るエレクトロニクス・サウンドに柔らかな歌声でハートを込めることで定評がありますが、その根底には映画仕立てのサウンド構成があるということなのでした。

 「オポチュニティーズ」のような皮肉たっぷりの歌詞も魅力的な曲で埋め尽くされたデビュー作はすでに完成されており、非の打ちどころがありません。次のアルバムのために曲を残しておく余裕まであったというまるで新人らしからぬデュオでした。

Please / Pet Shop Boys (1986 Parlophone)