「明日に向かって撃て!」はアメリカン・ニュー・シネマの傑作です。何がニューなのかは、私の世代でももはや分かりませんが、この映画はそんな能書きを加えずとも、娯楽性にも富んでいますし、主人公は魅力的だし、とにかく面白い。衝撃のラストの余韻もいいです。

 子どもの頃、ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード、キャサリン・ロスの三人の姿にときめいたものです。1969年、アメリカは遠く、ハリウッドは雲の上で輝いていました。米国と日本の格差は今よりもはるかに大きかった。

 この映画はアカデミー賞にて作曲賞と主題歌賞も受賞しており、作曲したバート・バカラックにはさらにゴールデングローブ賞も送られました。主題歌はそうです。誰もが知る名曲「雨にぬれても」です。見事に全米1位も獲得する大ヒットにもなっています。

 私も確かに映画を見たのですけれども、後になって思い返すと、全編に音楽が流れていたような気がしてしまいます。そこがバカラックの凄いところです。実際にはタイトルバックを加えても約2時間の本編中、音楽が流れるのは11分しかありません。

 使われた楽曲はわずかに4曲です。本作品は、その4曲を中心にして、フル・サイズのアルバムになるようバカラックがじっくり手を加えて作り上げています。その意味ではサントラでありながら、バカラックのソロ・アルバムだと言えます。

 映画で実際に使用された曲は、オープニングとエンディングのタイトルバックでも使われていた「捨てた家」、スキャットを使った「自由への道」、「オールド・ファン・シティ」、そして「雨にぬれても」の4曲です。

 ただし、3人が当時はまだ珍しかった自転車で遊ぶ有名なシーンで流れる「雨にぬれても」は「二人の自転車」と題されています。その他にインスト・バージョンと、重鎮フィル・ラモーンが録音し直した全米1位バージョンが「雨にぬれても」のタイトルで収録されています。

 もともとは歌無しを所望されていたところをバカラックはハル・デヴィッドの歌詞を加えて監督を強引に納得させました。歌手は当時新人だったBJトーマスです。なんとバカラックはこの曲を「確かにディランを意識して作曲した」のだそうです。聴いてみたかったです。

 「捨てた家」もバージョン違い、タイトル違いで3曲、後にもう一つのエンドクレジットとして流された未使用曲「サンダンス・キッド」を加えて全9曲。それでも30分に満たない長さですが、とりあえずフル・アルバムにはなりました。

 バート・バカラックはこの当時40歳くらいで、前年に映画「アルフィー」で初のグラミー賞を受賞していますし、その名前も知れ渡ってきていた頃です。脂がのってきた時期といえるでしょう。そして、彼の名はこのアルバムで不滅のものとなりました。

 「雨にぬれても」は数多くのアーティストにカバーされ、スタンダードとして映画音楽特集で流されないことはありません。あの当時の空気をすべて閉じ込めて、なおかつ劇伴としても斬新。名曲中の名曲といえます。バカラックはやはり凄い人です。

Butch Cassidy and the Sundance Kid / Burt Bacharach (1969 A&M)