オチョはスペイン語で「8」を意味します。容易に想像できる通り、このバンド、オチョは8人組です。これは「70sNYラテンの異色グループ、オチョのファースト・アルバム」です。知る人ぞ知るバンドで、解説によればオリジナルLPの値が下がることのないバンドです。

 彼らが注目を集めたのは、知る人ぞ知る音源を発掘することにかけては右にでるものがないソウル・ジャズ・レコードから出された「ニュー・ヨリカ!」に収録されたことでしょうか。ディープ・ラテンでない私がへーっと思ったのはそこです。

 ニューヨリカンとはニューヨーク生まれのプエルトリコ人のことです。サルサの誕生には諸説ありますけれども、ニューヨリカン・コミュニティーが大きな役割を果たしたことは間違いありません。少なくともサルサを流行らせたのは彼らです。

 オチョはニューヨークのプエルトリコ系移民社会から発生したバンドです。この作品は1972年に発表した彼らのデビュー・アルバムで、発表はメジャー・レーベルのユナイテッド・アーティスツです。ただし、UAのラテン部門はお世辞にも力が入っていたとは言えません。

 オチョはUAから合計3枚のLPを発表します。しかし、レーベルがラテンから手を引くのと歩調を合わせたわけではないでしょうがその後音沙汰がありません。幻の度合が極めて大きいバンドであることが分かるでしょう。さすがはソウル・ジャズ・レコードです。

 バンドのリーダーは、ピアノとヴィブラフォンのチコ・メンドーサです。彼を中心に3人によるホーン・セクションとベース・ギターをはさんでパーカッション3人という面白い編成の8人組です。ラテンのバンドで3管体制というのもなかなか珍しいです。

 3人ともサックスで、それもテナーが二人とバリトンが一人です。彼らは時にフルートも吹きます。アルトがないのが面白い。パーカッションは、ボンゴにコンガ、そしてティンバレスです。こちらもドラム・セットはありませんが、こちらはザ・ラテンです。

 パーカッションがパーカッションだけに、オチョのサウンドはとてもディープなラテン感覚が横溢しています。どこからどう聴いてもラテンです。サルサというよりも、キューバ系の水気がしたたり落ちるようなビートが全編を貫いていて、素晴らしいです。

 ディープとは言いながらも、さすがはニューヨークだけに、ジャズやファンクの影響も色濃く感じるところがいいです。こういう音楽を聴いていると、友達に自慢したくなること請け合いです。何だか聴いている自分が違いの分かる男になったような感じがして嬉しいです。

 解説の原田尊志氏は彼らの音楽を「クールでいて熱い、ブラックネスの宿る音楽性」と分かりやすく表現する傍ら、「レイジ―」という言葉も使っています。手数の多いパーカッションやピアノ、吹きまくるサックスを前にした「レイジ―」。深いです。

 オチョのサウンドは確かに黒っぽくて、湿気の多い熱帯夜を存分に感じさせてくれます。パーカッションが清涼剤となって、ピアノとサックスが何とか正気を保って演奏する。何とも気合の入ったデビュー・アルバムでした。「70年代初頭の空気を孕んだ傑作」です。

Ocho / Ocho (1972 United Artists Latino)