BiSHのモモコグミカンパニーは、「アイドルというのは、プロデューサーの意向、楽曲、衣装から作られたイメージ、そんな裏の大人たちによって作られていて、その人たちが考えた何らかのメッセージのようなものを体現化する手段だ」と書いています。

 今のアイドルたちは極めて冷静に自分の立ち位置を見据えています。NMB48の紛れもないトップ・アイドルである山本彩も例外ではなく、アイドルとしての自分とアーティスト活動をする自分との違いを見つめながら軽やかに前に進んでいます。

 AKB48グループの中では最も歌が上手いと思われるさや姉こと山本彩の二枚目のアルバムが発表されました。タイトルは「アイデンティティー」、ジャケット及びブックレットには彼女と同じ服を着た大量のマネキン人形が写っています。

 これだけで多くのことが語られています。アイドルとアーティストの二刀流を突き詰めようとして悪戦苦闘するさや姉の心象風景が現れています。前作はファーストということもあり、手探りしながら作ったのに対し、本作ではより自分自身を込めてアイデンティティー。

 サウンド・プロダクションは前作とほぼ同じで、音楽プロデューサーも東京事変の亀田誠治が務めています。コンピューターももちろん使われていますが、基本的なつくりはバンド・サウンドであることも前作同様です。

 全13曲中7曲と半数以上が山本の作詞作曲です。本格的なソロアーティストとしてのさや姉の矜持が見えます。アイドル活動と並行しながらの曲作りは大変なことでしょうが、前作よりもさらにこなれてきて、堂々とした曲作りです。

 彼女の曲以外では、まずは阿久悠作詞の「愛せよ」が目を惹きます。これは阿久悠の未発表の詞に曲をつけるプロジェクトの一環として、いきものがかりの水野良樹が担当した曲です。詞に引かれて昭和歌謡然としているところが面白いです。

 そしてドリカムの「何度でも」のカバー。楽曲提供ではなくヒット曲のカバーとはむしろ思いきりました。山本の芯の強い弾けるような声によるボーカルがいいです。この曲のみならずアルバムでは曲に合わせていろんなスタイルで歌う器用さを発揮しています。

 巻き舌にヨーデルも交えた思い切った歌唱は、山本が学生時代からよく聴いていたというシンガーソングライター阿部真央による「喝采」です。♪やいのやいのうるさいよ♪と怒られて悶絶しているファンは多いことでしょう。

 自作の「陸の魚」で渋く受ける並べ方も見事です。シングル・カットされた「JOKER」もそうですが、山本の自作曲はメロディーのセンスもいいし、心中を吐露する歌詞もなかなかのものです。亀田の手堅いプロダクションを得て、Jポップの王道を歩んでいます。

 ただし、残念ながら今回もさや姉のギターはお預けの模様です。むしろ制作側がAKBグループであることに忖度しすぎなのではないでしょうか。アンプラグドでも、ガールズバンドでも、ノイズでも、一度冒険してみてはどうでしょう。せっかくの逸材なんですから。

参照 : 「目を合わせるということ」モモコグミカンパニー(シンコー・ミュージック)

Identity / Sayaka Yamamoto (2017 Laugh Out Loud)