シネマティック・オーケストラは、エジンバラ出身のDJ、ジェイソン・スウィンスコーのソロ・プロジェクトです。そのデビュー・アルバムは「フューチャー・ジャズ」なる呼称を賜り、クラブ・ミュージックの一つの潮流となっていきました。

 2年半ぶりのセカンド・アルバムはその世界がさらに奥深く広がっていきました。イギリスのクラブ界の重鎮ジャイルス・ピーターソンをして「このレコードがリリースされるのがずっと待ち遠しかった」と言わせたアルバムは期待を上回る傑作です。

 ジャイルスを引用すると、このアルバムは「ダークで少し歪んだ作品であると同時に、メロディーとソウルにも溢れている。『チルアウト』でも『ハードコア』でもない作品・・・両方だと考えてもらった方が正確」です。全くその通りだと思います。

 サウンドの作り方は、たとえば、「グルーヴやメロディーのラインをレコードからサンプリングし、その上でミュージシャンがセッション、即興のパートはそれぞれの楽器を個別のトラックに録音」して、それらを切り刻み再構築していくというものだそうです。

 セッションのベースには、マイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンなどのジャズ・ジャイアンツから、ラロ・シフリンやバーナード・ハーマンなどサントラの大御所まで多彩です。もはや原形をとどめませんが、これがベースになっているとは。

 セッションするミュージシャンは、前作にも参加していたジェイソンの15年来の友人というフィル・フランスや、DJフードとしても活躍するパトリック・カーペンターなど、気心の知れた仲間たちです。ソロ・プロジェクトながらライブもこなすバンドにもなっています。

 本作品で驚かされたのは、ゲスト・ボーカリストの参加です。2曲で圧倒的な歌唱を聴かせるのはフォンテラ・バス。1960年代初めにデビューした歌手で、ソロでは「レスキュー・ミー」のヒットで知られる、長らくジェイソンの憧れだった女性ボーカリストです。

 バスはレスター・ボウイの元夫人でもあり、アート・アンサンブル・オブ・シカゴにも客演しています。「ずっと僕の夢だったんだ。ロンドンのこんな無名のバンドとはやってくれないだろうと思ってたんだ」とジェイソンは興奮気味です。

 もう一人は同じニンジャ・チューン所属のルーツ・マヌーヴァ。UKヒップホップのレベルを高めたMCで、ヒップホップっぽくない「絶対に興味を示さないだろうと思ったトラック」で見事なラップを決めています。カッコいいです。

 ジェイソンは本作の前に無声映画に音楽をつけるプロジェクトに参加しており、この作品は大半がそのプロジェクトからアイデアとインスピレイションを得ています。「映画が土台になっているから、そういう意味では前作とは違うんだ」と語る通り、さらに映画的になっています。

 まるでスクリーンから流れてくるようなサウンド・プロダクションになっており、どんどんバンド名がサウンドを切り開いていきます。「純然たる音の求道者達」による作品は極上のエレガントな時間を演出してくれます。まるで映画館の豪華シートに座っている気分です。

Everyday / The Cinematic Orchestra (2002 Ninja Tune)