ザッパ先生が嬉しそうに頭に被っているのは、ステレオで録音できるように工夫したマイクです。しかもこれはエリック・ホワイトなる人の手による油絵です。写実的ではありますが、奇妙に歪んでいて、さらに色調が何とも言えません。

 「ダブ・ルーム・スペシャル」は1982年に発表されたフランク・ザッパのビデオ作品で、このアルバムはそのサウンドトラックです。サントラとは言え、ドウィーズル・ザッパの手によって監修されており、全曲入っているわけでもなく、曲順も変更されています。

 収録されているのは1974年8月27日のロスアンゼルスでのライブと1981年ハロウィーンでのニューヨークでのライブです。前者が9曲、後者が2曲の割合です。ビデオからカットされたのは前者が1曲、後者が3曲です。随分1974年バンドによっています。

 ややこしいことに、1974年のライブは「トークン・オブ・ヒズ・エクストリーム」としてテレビ用に番組として制作されたものです。米国の放送局には放送を拒否されてしまい、お蔵入りになった作品で、ザッパ先生はこれを素材に使って本作を作っています。

 ゲイル・ザッパはこの作品のマスターテープをザッパ家のヴォールトをうろうろしている際に発見したそうです。ビデオの方は1982年に上映され、さらにメール・オーダーにて1984年に発売されていますが、音源は未発表でした。

 今回は、マスターテープ発見を機に、CDとDVDで発表されることになりました。目出度いことです。編集室でふざけながらビデオは進行し、中には1982年7月に起きたイタリア・ツアーでの発砲事件があった際の控室の模様まで映り込んでいます。
 
 さらにビデオにはアメイジング・ミスター・ビックフォードの粘土アニメが演奏に重ねられていて、そこにはアニメのサウンド・エフェクトまで重なっています。しかし、さすがにCDは楽曲だけですし、そのサウンド・エフェクトも除かれています。良心的です。

 1974年バンドの演奏はもちろん素晴らしいです。特に「インカ・ロード」と「フロレンティン・ポーゲン」の2曲は、ここでの演奏が大傑作「万物同サイズの法則」収録のオリジナルのベーシック・トラックになっています。

 ライナーノーツを書いているレッチリのジョー・フルシアンテは、74年バンドではルース・アンダーウッドとジョージ・デューク、ナポレオン・マーフィー・ブロック、81年バンドの方ではトミー・マースとエド・マン、それにレイ・ホワイトの名前を特に挙げて賞賛しています。

 ジョーがお世話になったザッパのギター本を書いたスティーヴ・ヴァイも81年バンドでその変態ギターを弾いています。もうこれだけで十分ですが、その上にザッパ先生のソロは堪能できるは、チェスター・トンプソンとチャド・ワッカーマンの超絶ドラムは聴けるは、最高です。

 ビデオはビデオで面白いのですが、やはり混じり気のないサントラはいいです。ただ、74年バンドのこのライブは単体作品として別途発表されることになりますから、注意が必要です。もちろん、どちらも入手するのがファンとしては正解ですが。

The Dub Room Special / Frank Zappa (2007 Zappa)