伝説のアルバム「ノー・ニューヨーク」にも参加していたリディア・ランチ率いるティーンエイジ・ジーザス&ザ・ジャークスのライヴ音源をコンパイルしたアルバムです。正直、あまり面白くないバンドだと思っていたのですが、このライブを聴いて見直しました。とてもいいです。

 リディア・ランチは16歳の時にニューヨークに出てきました。家出娘です。当時のニューヨークで活動していたスーサイドやマーズなど、後にパンクと呼ばれる同世代の音楽活動に影響されて、ティーンエイジ・ジーザス&ザ・ジャークスを結成しました。1977年のことです。

 ランチの他には、ドラムスのブラッドリー・フィールド、サックスには後に「ノー・ニューヨーク」の代表コントーションズとなっていくジェームズ・チャンス、そしてベースには観光に来てそのままメンバーに収まった我らがフリクションのレック。最初は4人組でした。

 このアルバムにはこのメンバーによる1977年8月8日のライブが2曲収められています。私にはその事実だけで鳥肌ものなのですが、案の定、とてもカッコいいです。チャンスのサックスとランチのボーカルが戦っていますし、若き日のレックも眩しいです。

 しかし、これは長続きしそうにありません。ランチの強烈なパーソナリティがバンドそのものなので、音楽的でかつカリスマ性も高いチャンスのサックスはランチのパフォーマンスとぶつかり合ってしまいます。その危うさと歴史的な価値を愛でる演奏です。

 続く1978年5月のライブには、チャンスは当然おらず、レックも日本に帰ってしまって、ランチ、フィールドと新加入のベーシスト、ゴードン・スティーヴェンソンのトリオが臨みました。このメンバーもこれだけで、以降1978年8月以降のライブのベースはジム・スクラヴノスです。

 こうなるとランチの独壇場です。素人のようにとにかく叩くフィールドのドラムと、後にソニック・ユースやクランプス、ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズなどで活躍する骨だらけのスクラヴノスのベースを背景に、ギターとボーカルで圧巻のパフォーマンスを繰り広げます。

 「正確に間違った音を奏でようとしていた」という切り裂くような不協和音を繰り出すギター。醒めた絶叫を聴かせるボーカル。バンドのライブ・セットは10分を超えないと言われたほど、短時間で燃え尽きてしまう類の強烈さです。

 「ノー・ニューヨーク」での彼女たちのパフォーマンスは丸まっていましたが、ここではむき出しのサウンドが聴こえてきます。リディア・ランチはまだ10代の若さです。神経症的なまでに赤裸々に苦悩と戦う姿が眩しいです。余計な感傷は一切ありません。

 身の毛のよだつサウンドですが、あくまで透明で曇りがありません。文学の香りも強く、ディープなアメリカン・アートを感じます。ニューヨークのマクシス・カンサス・シティやCBGBで繰り広げられた濃いライブに遭遇した人は幸運でした。

 このバンドは短命に終わりましたが、リディア・ランチはこの後、さまざまな形で女王さまぶりを発揮し、「リディア・ランチのアートを定義する唯一の道は定義しないことだ」といわれる多彩な活動を続けます。孤高の道を歩む徹底的に強い人です。

Live 1977-1979 / Teenage Jesus and the Jerks (2015 Other People)