フェラ・クティの1980年発表作品です。ベルリン・ジャズ・フェスティバルから帰国後、アフリカ70は崩壊してしまい、1979年春には新しくエジプト80が結成されます。このアルバムはアフリカ70名義ですが、何やらそんなごたごたした時期に制作された模様です。

 この作品では、「オーソリティー・スティーリング」、政府が盗むという極めて直截な表現での政治批判が繰り広げられます。フェラはこの頃からますます政治にのめり込むようになっていきます。トニー・アレンの脱退はそんなフェラについていけなくなったことも一因でした。

 ジャケットには、具体的な事件への言及があります。「アチャンポンがガーナの国庫を空にした」。イグナティウス・アチャンポンは1972年にガーナでクーデターを起こし、軍事政権を樹立しました。1978年に失脚するまでの「泥棒政治」でガーナは酷いことになりました。

 「ハイレ・セラシエはスイスの銀行に4000万ドル」。ハイレ・セラシエはラスタファリアンによって神格化されているエチオピアの最後の皇帝ですが、独裁路線は自身の腐敗もあって行き詰まり、ついには廃位・暗殺されてしまいました。

 随分思い切ったものですが、いずれも終わった事件ではありますし、ナイジェリアのことは、「ナイジェリアの議員が『陸軍が国庫を空にした』と不満を述べている」、「300億ドルのオイル・マネーが紛失した」等となっており、やや舌鋒が鈍い。

 闘うフェラは容易に手の内を見せないということだと解釈しておきたいと思います。そんなフェラの気づかいにも関わらず、ナイジェリアのレコード会社はこの作品をプレスすることを拒否します。何度も弾圧されているフェラを見ているだけにそれは怖いでしょう。

 そこでフェラはこの作品をガーナでプレスして、それをナイジェリアに密輸することにしました。こりゃまた凄い話です。全く怯まないフェラ・クティの姿勢は称賛に値します。どこまでもハードボイルドな人です。

 アルバムには24分程度のタイトル曲が1曲だけです。フェラはこの歌でナイジェリアのエリートたちによる腐敗と収奪は、日々を生きぬくために貧しい人々が行う強盗よりも悪いんだと繰り返します。アフリカ人はこのナンセンスを何とかしなければならない!

 このように歌詞はより直截なメッセージを乗せて秀逸です。一方、サウンドの方はミッドテンポのリズムが淡々と続いていきます。妙に醒めたような感覚で、いつもの熱さには欠けています。ソロも大いに盛り上がるというふうでもない。

 そんなわけでサウンド的にはさほど人気があるわけではありません。やはり、アフリカ70からエジプト80への端境期に当たるということなのかもしれません。多少手探り状態なところを感じます。しかし、それはそれで凄味を感じるところがまた面白い。

 ところでこの作品にはトニー・アレンは入っているのでしょうか。どうもこのドラムはアレンらしくない気がします。この頃のフェラ作品は録音時期が今一つはっきりしないので厄介です。その分謎解きの楽しみがあるとも言えますが。

Authority Stealing / Fela Anikulapo Kuti & Afrika 70 (1980 Kalakuta)