21世紀を目前に控えて、U2の選んだ道は「ヨシュア・トゥリー」のプロダクション・チームと再度アルバムを作ることでした。イーノ、ラノワ、そしてスティーヴ・リリーホワイトも顔を出し、原点回帰とも言われるアルバムをほぼ4年ぶりに発表しました。

 前作「ポップ」発表後に行われたポップマート・ツアーは商業的には最大規模のツアーで、大成功だったはずですが、メンバーは疲弊してしまった模様です。「ポップ」に対すると同様、メンバーからはネガティブな発言が聞かれます。

 そんな時は日本では故郷に帰って魂振りをするものと古代から決まっています。U2にとっても故郷はかのプロダクション・チームなのでしょう。前作のハウイーBが素のU2サウンドを聴いて、逆に感動したことも彼らを後押ししたようです。

 出来上がった作品「オール・ザット・ユー・キャント・リーヴ・ビハインド」はU2第三の傑作とされ、セールスも1000万枚を軽く超えるウルトラ・ヒットになりました。全曲シングル曲だと豪語する通り、シングル・カットされた4曲も大ヒットしています。

 さらにこの作品は二年次にわたってグラミー賞を多数受賞しています。U2はいよいよグラミー賞の定連と化します。ロック的には褒められたことではありませんが、とにかく音楽業界が描く傑作像にぴったりな作品です。

 この頃、バンド、特にボノはアムネスティ・インターナショナルのキャンペーンやジュビリー2000運動での活躍などですっかり社会派としてエスタブリッシュされていました。そこへこんな堂々たる王道サウンドが復活したわけですからグラミーがほっておくわけはない。

 一方、ファンの評価は結構分かれました。これは後退なのか前進なのか、ということです。しかし、時間はそんなに直線的に流れるものではありません。後退でもあり、前進でもあり、私はむしろ一般的な時間を超越したところにある新作だと思いました。

 堂々たるサウンド。どこからどう聴いても王道です。前作に比べると極めて自然体です。ボノの歌唱も伸びやかですし、ジ・エッジのギターも久々にソロが聴けます。リズム隊もまるで無理しておらず、何とも充実したサウンドです。

 いきなり「ビューティフル・デイ」でポジティブに前を向き、21世紀への期待を高めます。自死したINXSのマイケル・ハッチェンスを歌った重い「スタック・イン・ア・モーメント」へと続き、前作とつながる「エレベーション」、そして「ウォーク・オン」とシングル4曲が並びます。

 「ウォーク・オン」はこの当時自宅軟禁中だったアウン・サン・スー・チー女史に捧げた曲で、ミャンマーでは放送も所持も禁止となりました。これは名曲です。私はU2の曲の中では最も好きな曲の一つです。とにかくメロディーが凄い。

 ローリング・ストーン誌が書くように「本作は、U2が今まで紡いできた強力なメロディの精髄を一体化させたアルバムである」と思います。堂々たる横綱相撲。壺にはまるとU2は凄いということが分かります。やはり別格ですね。

All That You Can't Leave Behind / U2 (2000 Island)