ボノが悪魔キャラとロックン・ロール・キャラを演じ、ステージの途中では大統領やら首相やら横綱やらに電凸するというパフォーマンスを交える極めて大掛かりなツアーの途中に制作されたアルバムです。ズーTVツアーはアルバム完成後ズーロッパ・ツアーへと改名しました。

 このツアーは1992年2月から翌年12月までの長期にわたる渾身のツアーで、収益は1億5000万ドルを超えるというとんでもない数字になっています。この頃のU2はロックを超えたスーパースター状態でした。

 その最中にひょっこり出されたアルバムですし、シングル・カットされた「ナム」も「レモン」も随分と冒険していたので、発表当時はてっきりリミックスか何か、ツアーのお土産的な企画盤かと思っていました。ちゃんと聴いてみるとそんなことはないのですが。

 前作「アクトン・ベイビー」は、「ジョシュア・トゥリー」&「魂の叫び」組からダンス系オルタナの方向へと寄っていった作品でした。本作は「アクトン・ベイビー」と対をなす作品で、その方向へさらに大きく踏み出しました。

 前作はさほどサウンドが変化してわけではありませんでしたが、今回はさすがに大きく変化しています。もちろんU2サウンドの範囲内でということですが。もともとEPを考えていたものが、次第に膨らんでフル・アルバムになったそうです。アイデアが噴出してきたわけです。

 今回はダニエル・ラノワが自身のソロ・アルバム制作で忙しかったので、プロデュースはブライアン・イーノに加えてジ・エッジその人と、これまでエンジニアとして関わってきたフラッドことマーク・エリスの3人が担当しました。スティーヴ・リリーホワイトも参加していません。

 ジ・エッジは「僕はいまだに、このアルバムのことを理解している最中でもあるんだ。作品が出来上がってしばらくしてからやっと、その全体を貫いているテーマが見えてくることがよくあるんだ。それが意識的なものではないことも、しばしばあるからね」と語っています。

 本作ではジ・エッジのギターがほとんど目立たず、まるでプロデューサー業に専念しているかのようです。その彼がアルバムの真のテーマを意識していたわけではないというのがいいです。やはりU2はバンドです。バンドの集合的無意識が作品の行く末を決めます。

 ボノが低音でぼそぼそ歌う「ナム」、ファルセットを多用する「レモン」などは、オルタナ系サウンドの典型ですし、エレクトロニクスやサンプリングも縦横無尽に使ってカラフルなサウンドが全面的に展開します。

 しかし、全体にスーパースターU2らしい風格があってこれまでと断絶があるわけではありません。ハード・ロック的でなくなった分、イーノ色が強い音になっていますけれども、U2はU2。結局、またまた米国でも英国でも1位を記録しました。さすがです。

 アルバムを締めくくる「ザ・ワンダラー」はカントリーの大物ジョニー・キャッシュをリード・ボーカルに起用するという意表をついた展開です。オルタナ仕様よりもパンクに座りがいいです。悪魔姿のボノの笑顔が見えるようです。

参照:「U2アルバム・ストーリー」Paul Sexton (ユニバーサル)

Zooropa / U2 (1993 Island)