モンスター・アルバムとなった「ヨシュア・トゥリー」に続く作品は、映像作品とそれに伴う二枚組レコードでした。「ウォー」の成功の後と同じ取り組みでしたけれども、先立つ成功の大きさが違うだけに、これもまたモンスター・アルバムになりました。

 基本的にはサントラであるとは言え、映像収録曲とCD収録曲は異なりますから、両方を購入しても楽しめるしかけです。全17曲中9曲がスタジオ録音の新曲で、8曲がライブ、そのうち2曲は他のアーティストの音源を使用しています。

 ライブ音源となったヨシュア・トゥリー・ツアーは1987年4月から12月の8か月間にわたる大掛かりなもので、12か国で全109公演を行っています。会場はスタジアム級となり、300万人を動員、興行収入は4000万ドルととにかくバカでかいです。

 大成功の後のプレッシャーを大物になり切ることで力に変え、いろいろなことを思いつくままに試してみたのがこの作品だと言えます。とりわけ、さまざまな形で超大国アメリカと格闘してみた軌跡が記されています。

 アルバムはビートルズの「ヘルター・スケルター」で幕を開けます。ビートルズのアメリカをテーマにした曲から始まるわけです。カバー曲はもう一曲、ボブ・ディランの「見張塔からずっと」。ディランとはスタジオ曲「ラヴ・レスキュー・ミー」を共作しています。

 ゲストとしてブルースの王様BBキングが登場しますし、「ディスカバー・アメリカ」のヴァン・ダイク・パークスがストリング・アレンジメントで参加している曲もあります。さらにはハーレムの路上デュオ、サタン・アンド・アダムの曲をフィールド録音してそのまま使用しています。

 そして、ジミヘンによる米国国歌「星条旗よ永遠なれ」をそのまま使用した後、米国の中米政策を批判した「ブリット・ザ・ブルースカイ」で大いに盛り上がり、最後にビートルズの「愛こそはすべて」を意識した名曲「オール・アイ・ウォント・イズ・ユー」で大団円を迎えます。

 さらにはビリー・ホリデイを歌った「エンジェル・オブ・ハーレム」には、ディープ・ソウルなスタックス・レコードで活躍したメンフィス・ホーンズが参加していますし、「終わりなき旅」はゴスペル風にアレンジされています。

 とにかくいろんな角度からアメリカと格闘しています。その結果は取り込まれるでもなく、反発し合うわけでもなく、お互いの存在をあるがままに確認しあった様子です。それを象徴するのはイーノが唯一参加している「ハートランド」でしょう。アンビエントな空気感にほっとします。

 いろんなことをやりながら、それを貫禄でねじ伏せたアルバムです。ストーンズの「メイン・ストリートのならず者」、ビートルズの「ホワイト・アルバム」に匹敵する二枚組大作だと言えます。賛否両論巻き起こるところも成功した二枚組ならでは。

 アルバムは当然のように英米で1位を記録したほか、二枚組にも関わらず全世界でまたまた大ヒットしました。シングル・カットされた「ディザイヤー」は初の英国1位を記録しましたし、世界はこの大物感に押し切られました。さすがはU2。

Rattle and Hum / U2 (1988 Island)