フェラ・クティとアフリカ70は、1978年11月4日、西ベルリンのジャズ・フェスティバルのステージに立ちました。根城にしていたカラクタは炎上し、ガーナも追放されて、演奏場所の確保に苦労していた彼らからすれば、フェスへの招待は渡りに船だったことでしょう。

 フェラによれば出演料は10万ドルでした。しかし、渡航費用はすべてこの10万ドルから捻出しなければならず、総勢70人の大所帯での移動ですから、この金額は正当なものではないと不満を口にしています。格安航空賃で東ベルリン経由の移動でした。

 しかし、この出演料の配分などを巡って、フェラとバンド・メンバーの間の亀裂は修復不能となり、ナイジェリアに戻った直後に、音楽監督まで務めていたトニー・アレンを含めて、バンドの大半はフェラのもとを離れ、アフリカ70は解散してしまいます。

 そんな事情で、このフェスティバルはアフリカ70の最後の演奏となってしまいました。意識していないにせよ、最後に相応しい白熱した演奏が、西ベルリンで行われ、それがしっかりと記録されたことは僥倖であると言わざるを得ません。

 この作品はコンサートの冒頭で演奏された「VIP」を収録したアルバムです。ジャケットにはVOL1と書いてあり、続編を出す予定があったようですけれども、当時は実現しませんでした。コンサートは2010年になってDVDで全貌を明らかにしますが、それはまた別の話。

 「VIP」は普通はベリー・インポータント・パーソン、すなわち重要人物のことですが、フェラはここではヴァガボンド・イン・パワー、権力を握ったならず者と読み替えて歌います。フェラの舌鋒はますます鋭く、見事な権力批判となっています。

 ライブ録音らしく、アルバムはまずMCによるバンド紹介、メンバーによるフェラ紹介を経て、フェラの挨拶が始まります。「皆が得ているアフリカの情報は99.9%間違っている」と語るフェラはおしゃべりを止めない観客をたしなめる一幕も。

 演奏は凄味があります。さすがは西ベルリン、録音が極めて良質です。ナイジェリア録音に比べると深みと奥行きがあるので、特にオルガンを交えたリズム・セクションの鬼気迫る迫力が凄いです。これだけでも鳥肌ものです。

 テナー・ギターの音もクリアですし、4管編成のホーンも生々しい。コール・アンド・レスポンスも決まっていますし、アフリカ70の最後に相応しい見事なサウンドです。わずか20分弱の1曲のみというのが何とも惜しい。

 ちなみに女声コーラスの6人は全員クティ姓を名乗っています。1978年2月20日にフェラは27人の女性と結婚式を挙げており、この6人は全員がフェラの奥さんです。何とも論評しにくいお話なので、皆さん仲良くてよかったですね、と申し上げておきましょう。

 ところでフェスのHPによればジンジャー・ベイカーもドラムを叩いていることになっていますが、少なくともこの曲には参加していません。結構長いセットですから、恐らくどこかで参加しているのでしょう。

VIP (Vagabonds In Power)
/ Fela Anikulapo Kuti & Afrika 70 (1979 Kalakuta)