このアルバムが発表された頃、誰がU2がスーパースターになることを予想できたでしょうか。正直に告白すると私はできませんでした。いいバンドだと思いましたけれども、まさかあそこまで大きくなるとは。

 「アイルランドからストレートなロックン・ロールをひっさげてロンドンへ進出。期待の4人組U2デビュー!」です。当たり前ですけれども、U2にもデビューがありました。当時のシーンのど真ん中の音でロックに正面から取り組んだ初々しいデビュー作です。

 タイトルは「ボーイ」。写真はアイルランドの裏U2ことヴァージン・プリューンズのグッギの弟です。アルバム全体に思春期がテーマになっています。今から考えるととてもU2らしい。その真摯な姿勢が眩しいです。

 U2はボーカルのボノ、ギターのエッジ、ベースのアダム・クレイトン、ドラムのラリー・ミューレンの4人組です。結成は1976年、みんなまだ15、6歳の頃です。不動の4人組となったのは1978年、そこで名前もU2になりました。

 始めはビーチ・ボーイズやストーンズのカバーなどを演奏していた彼らもタレント・コンテストで優勝してアイルランドCBSからレコード・デビューを果たします。「アウト・オブ・コントロール」はアイルランドのチャートで1位となりますが、英国CBSにはスルーされます。

 ならばということでアイランド・レコードと契約を交わしたU2は、1980年8月に英国でシングル・デビューを果たし、10月にいよいよデビュー・アルバム「ボーイ」を発表しました。プロデューサーはスティーヴ・リリーホワイトです。

 「俺たちはパンク・リアクションとしてバンドを結成したわけじゃない!」ですし、「もちろんニュー・ウェイブだとも思っていないョ」とボノは語っていますけれども、アイランドはそうはいきません。デビュー・シングルのプロデューサーはファクトリーのマーチン・ハネットでした。

 リリーホワイトもXTCやサイケデリック・ファーズなどを手掛けていましたから、ニュー・ウェイブ系統にも強い。そして、サウンドをそっち側に引っ張ろうとしています。サイケデリック・ファーズや同時期にデビューしたエコー&ザ・バニーメンなどの耽美系サイケ方面です。

 しかし、振り返ってみればということかもしれませんが、このアルバムのサウンドは引っ張られながらも、そこで小さくまとまってしまわない力強さを感じます。特に、誰もが驚いたジ・エッジのギター。その硬質なサウンドはすでに本領を発揮しています。

 曇天の寒々とした東京のウォーターフロントを歩きながら、このギター・サウンドに耳を傾けているとあまりにはまり過ぎていて背筋がぞくぞくしました。そこに手数の多いベースに力強いドラム、そしてエモーショナルなボノのボーカル。やっぱり一味違います。

 何かギミックがあるわけでもないストレートなギター・ロックで、まだ20歳前後の若者らしい不器用さも合わせ持ちつつも大器の片鱗を表しているという理想的なデビュー作です。出来過ぎでないところが素晴らしい。何はともあれデビューをお祝いしましょう。

Boy / U2 (1980 Island)