ライヴを丸ごと紹介するヴォールターナティヴ・シリーズの第二弾です。1980年10月25日にニューヨーク州のバッファローにあるメモリアル・オーディトリアムで行われたライブが丸ごと収録された2枚組です。本当に全部でしょう。恐らく。

 レコーディングにあたったジョージ・ダグラスによれば、この日のバッファローはひどい雪でとても寒かったそうです。ミキシング・デスクはステージ上に置かれていたそうで、最良の状態とはとても言えませんでしたが、欠点も含めてそのまま収録する方針が貫かれました。

 1980年のザッパ先生は、4月から7月初めまでアメリカとヨーロッパでライブをした後、7月から9月まで「ユー・アー・ホワット・ユー・イズ」のレコーディング・セッションを行っています。そして9月半ばからリハーサルを行って10月に米国とカナダのツアーに出かけました。

 このツアーをダグラスは「パンティー&ブラ・ツアー」と言っていますが、ゲイル・ザッパは「クラッシュ・オール・ボックス・ツアー」と表現しています。文字通り、「箱は潰せ」ということで、大きなごみ置き場に書いてあった標語です。

 この頃、ザッパ先生はワーナー・ブラザーズとの訴訟のために、せっせと書類を整理しており、それが段ボール何箱にもなっていたんだそうです。作業をしていた弁護士事務所のすぐ裏手でこの標語を見かけたので、夫婦して大いに笑ったというのが命名の理由です。

 さて、このバンドは一旦ザッパ・バンドを離れていたヴィニー・カリウタが戻って来ていること、ザッパ・バンド史上ザッパ先生以外で最も長いギター・ソロを弾く男スティーヴ・ヴァイが初めて参加したことで特筆されてよいでしょう。

 ライブの頭のメンバー紹介で、ヴィニーは「リズム・エンサイクロペディア」と紹介されています。リズムの百科事典とは最大の賛辞でしょう。ヴィニーの縦横無尽なやたらと手数が多いドラミングはその名に恥じません。

 このヴィニーのドラムとアーサー・バロウのベースによるリズム・セクションは本当に凄い。ここにザッパ先生のではないスティーヴのギター・ソロも加わって、サウンドに厚みが増しています。80年バンドもやっぱり素晴らしいです。

 ライヴで披露された楽曲にはこの時点で未発表だった曲が多数あります。というのも、このツアーの音源を編集して作られたのが「ティンゼルタウンの暴動」でした。すでにツアー前半で完成しているところがザッパ・バンドです。

 本作は2回のアンコールを含めてライブ丸ごとです。23分を超える「拷問は果てしなく」や、「ダンシング・フール」に続く先生のレクチャーなどは丸ごとならでは。レクチャーではディスコでナンパした看護師さんの女王さまにムチ打たれるという話が楽しめます。

 ところで、このライブ音源は「ティンゼルタウンの暴動」には全く使われていません。ザッパ先生的には出来が今一つだったのかもしれませんが、そんなところも含めてやっぱり丸ごとはいいです。本当にライブを見たかったなあと思わせるアルバムです。

Buffalo / Frank Zappa (2007 Vaulternative)