ニコラ・コンテはイタリアのオヤジであることをうっかり忘れていましたので、このジャケットには意表を突かれました。イタリアのみならずヨーロッパのクラブ・ジャズ界の大物ですが、ちょい悪オヤジというイタリア人男性のイメージそのまんまの御姿です。かっこいいです。

 しかし、このジャケットを見た時に最初に思い浮かんだのは、実はオースティン・パワーズです。サイケデリックそのものなタイポ、どぎつい色にそめたケシの花がフラワー・パワーを表現していますが、そことの距離の取り方はオースティンと共通するものがあります。

 ニコラ・コンテの4枚目のアルバムはその名も「ラブ・アンド・レボリューション」です。愛と革命。ジャケットの効果とあいまって、ベイ・エリアに集った若者たちを想起させます。♪愛だけがぼくたちを自由にしてくれる。大空を飛ぶ鳥のように♪とまっすぐ歌い上げられます。

 とはいえ、どっぷりのめり込んでいるわけではないところにオースティン・パワーズを感じるんです。リスペクトはするけれども一体化はしない。パロディーではないけれども強く布教するわけでもない。大人の対応と言ってよろしいでしょう。

 本作品にはイタリアのハイ・ファイヴからも参加していますが、北欧勢の活躍が目立ちます。そもそもアレンジをお任せしているのはスウェーデンのジャズ・マン、マグヌス・リングレンです。クインシー・ジョーンズを敬愛するマグヌスですから、アレンジの仕事はもってこいです。

 それにフィンランドのファイヴ・コーナーズ・クインテットやスウェーデンのクワイエット・ナイツ・オーケストラなどハイ・ファイヴと競い合う人気ジャズ・バンドからのメンバーも参加していますし、チェット・ベイカーの再来ドイツのティル・ブレナーも参加と豪華です。

 ニコラ・コンテも本作では全面的にギターを弾いていて、結構目立ちます。そんな演奏陣とともに歌うのは総勢7人のボーカリストです。あちらこちらで引っ張りだこのホセ・ジェイムスや、クラブジャズ界の大物ジャイルス・ピーターソン一押しのナイラ・ポーターが目立ちます。

 全15曲のうちインストゥルメンタルはわずかに2曲です。それもジャズの巨人二人、ジャッキー・マクリーンの「アポイントメント・イン・ガーナ」とマル・ウォルドロンの「クワイエット・テンプル」のカバーにはわざわざ歌詞をつけてボーカル曲にしています。

 この両曲に付けられた歌詞はとても律儀に原題からイメージを膨らませて書かれています。英語で書かれた歌詞はとても分かりやすく、愛と革命のメッセージを押しつけがましくなく伝えていきます。何だか面白い人です。

 演奏もボーカルもコンテの歩みをさらに進めたジャズの世界です。しかし、今回は太陽神「ラ・イン・エジプト」やインドの神様「シバ」、アフリカンな「バンツー」とエスニックなムードが漂っていますし、リュートやシタールも活躍します。

 そして、生演奏による曲の中で、「バンツー」はコンガとフルート以外はプログラミングによる曲です。コンテのこうした多様な顔が、より彼のジャズ深堀をカラフルにしています。やはり、クラブ・ミュージックの側からのジャズへのアプローチが彼の個性なんだと思います。

Love & Revolution / Nicola Conte (2011 Impulse)