ビョークの2年10か月振りの新作です。これまた物凄いジャケットです。モデルとなっているのはもちろんビョーク。蝋で出来ているのか、はたまた飴細工か。手に持っているのはフルートでしょうか。常に人の美意識の上を行く人です。

 前代未聞のハートブレイク・アルバムに続くアルバムは「さあ、今度は自由なのよ!花火を上げよう!空気みたいに軽やかなフルート満載のアルバムに使用!そうだ、ユートピアよ!」という具合に制作されました。

 フルートはビョークが子どもの頃に初めて習った楽器なのだそうです。そのフルートを全面的にフィーチャーしました。記載されているフルート奏者は総勢13人。ビョーク自身もフルートを演奏しています。ビョークとフルート、これまた意表をついた取り合わせです。

 今回の音楽パートナーは前作に引き続いてベネズエラ出身のDJ、アルカです。「こんなに強いコネクションを感じた人はそう何人もいない」とビョークに言わせる絶妙のコンビです。フルート以外のほとんどはビョークとアルカの二人による作品です。

 前作同様に、モノローグのようなビョークの歌声と音数の少ない美しすぎるサウンドのコラボです。まるでビョークが即興で詩の朗読をして、そこにサウンドを足していったかのような佇まいで、決してカラオケになったりしない音響彫刻です。

 各楽曲に込められたビョークのメッセージはシンプルで明快です。ラテン語で白紙を意味する「タブラ・ラサ」では父たちの失敗を繰り返さないまっさらな世界を子どもたちに残すために女性たちに起ち上ることを促しています。♪あなたは強い♪。

 ビョークの力強い歌声でじっとりと言われると心が穿たれるようです。ビョークは強い。アルバム全体が派手に騒ぐわけではないけれども、とてもポジティブな空気を醸し出しています。強いとしか言いようがない。さすがビョークです。

 本作品でフルートと並んで活躍しているのは鳥の声です。英国のアーティスト、デヴィッド・トゥープがアルカの出身地ベネズエラのアマゾン地帯でフィールド・レコーディングしたものや、ビョーク自身がアイスランドで録音してきた声が使われています。

 「今回は意図的に、エレクトロニック・ビートと鳥の囀りが同居できる世界を作ろうとしていたところがある」とビョークは語っています。フルートも同じような意味合いがありそうです。その試みはもちろん成功しています。新しい取り組みを欠かさないビョークらしいです。

 気になるのは日本盤の帯に書かれたビョークの紹介です。300字あまりの文面の9割は3枚目の「ホモジェニック」までのことで占められています。「ホモジェニック」はもう20年前の作品です。もちろんビョークの活躍はそれ以降も続いています。

 しかし、確かにそれ以降のビョークの作品は評価は高いものの、一般的な人気は翳ってしまっています。本作品もチャート的にはこれまでで一番低い。あたかも人気のある現代音楽作家のような位置づけにあります。もうそう思えばいいのかもしれませんね。

Utopia / Björk (2017 One Little Indian)