アル・クーパーという人はとても捉えどころのない人です。マイク・ブルームフィールドもクーパーほどではありませんが、やはり捉えどころがない。どちらもレギュラー・バンドがあるわけでもなく、ソロというわけでもない。ただし才能はとんでもない。

 その二人が最初に出会ったのはボブ・ディランの「ライク・ア・ローリング・ストーン」の録音現場です。マイクはディランが連れてきたギタリストで、とにかくディランに憧れていたクーパーはセッションに潜り込んでオルガンを弾かせてもらった。そんなドラマチックな経緯です。

 その後、紆余曲折を経て、二人は「スーパーセッション」なる企画を立ち上げてアルバムを作ります。バンドにこだわらず力のあるミュージシャンによるセッションでアルバムを作ってしまおうというロックにしては珍しかった企画です。

 それが成功したことに気を良くした二人が、そのライヴ・バージョンとして作ったのがこの作品です。マイクのギターとアルのオルガン、リズム・セクションはマイクの隣人ジョン・カーンのベースと、アルの推薦を受けたスキップ・プロコップのドラムです。

 この四人で4日間練習して、1968年9月26日から28日の3日間、サンフランシスコのフィルモア・ウェストで本番が行われました。フィルモアはイーストもウェストもこの当時はロックの殿堂的な場所でした。ネーム・ヴァリュー大ですから邦題は「フィルモアの奇蹟」。

 ただし、3日目はマイクは不眠症が悪化して欠席、代わりにエルヴィン・ビショップ、カルロス・サンタナが参加しました。スーパー・セッション・ライヴ版ならではのハプニングです。なお、スティーヴ・ミラーも参加したそうですが、レコードには記録されていません。

 ジャケットは有名な画家・イラストレーターのノーマン・ロックウェルが手掛けた傑作です。若干「笑う洋楽展」を思わせますが、こちらはパロディーではなく、ちゃんとした作品です。アルとマイクのキャラクターがよく分かる絵になっています。

 2枚組の大作には、ポール・サイモンやザ・バンドのアメリカの同時代アーティスト、ジャック・ブルースにトラフィックの英国勢からのカバー、レイ・チャールズ、サニー・ボーイ・ウィリアムソン、アルバート・キングのブルース勢のカバーが程よくバランスして同居しています。

 サンタナは初々しいギターを弾いていて、これがレコード・デビューです。エルヴィン・ビショップも駆け出しのはずですが、堂々たるボーカルとギターを披露しています。しかし、やはりマイクのブレイにはかないません。鬼気迫っています。

 アル・クーパーも認める通り、マイクが歌ってギターを弾きまくるアルバート・キングの「激しい恋はもうたくさん」がアルバム中の白眉でしょう。11分に及ぶ大曲は感動的です。そこからフィナーレとなり、マイクがギターを床に落とした音でアルバムが終わるという構成。

 ボーカルはともかく、少なくとも演奏は見事なホワイト・ブルースとなっています。ルースでいてラフなドライブ感あふれるサウンドはセッションの一期一会の魅力を遺憾なく発揮しています。ロックに新しい可能性を開いたという意味でも重要な作品です。

The Live Adventures of Mike Bloomfield and Al Kooper / Mike Bloomfield and Al Kooper (1969 Columbia)