イタリアからこんなジャケットで発表されれば、これはもう映画音楽とのつながりを感じざるを得ません。ニーノ・ロータにエンニオ・モリコーネ。極上のサウンドトラックを生んだ伝統がイタリアの音楽界を貫いています。

 ニコラ・コンテは、「本国イタリアのみならず現在の新世代ヨーロピアン・ジャズ・ムーヴメントを代表するプロデューサー/DJ/ギタリスト」です。1995年に自身のレーベル「スケーマ」を立ち上げて、イタリアにクラブ・ジャズ・ブームを巻き起こしたという人物です。

 この作品は2004年にブルー・ノートから発表された作品で、数え方にもよりますがコンテのセカンド・アルバムです。タイトルは「アザー・ダイレクションズ」、その名の通り、クラブDJとして出発したコンテの新たな方向性を指し示す作品になりました。

 前作ではサンプリングなども使用していましたが、ここでは完全生演奏です。コンテは1曲だけギターを弾いていますが、基本的には作曲とプロデュースを役割としています。演奏するのはイタリアのトップ・ジャズ・ミュージシャンが中心です。

 イタリアで現代のハードバップを演奏するとして人気のハイ・ファイヴ・クインテットからは、トランペットのファブリッツィオ・ボッソ、サックスのダニエル・スカナピエコ、ベースのピエトロ・チャンカリーニ、ドラムのロレンツォ・ツゥッチ。

 そして、チャンカリーニ、ツゥッチとLTCなるトリオを組むピアノのピエートロ・ルッス。彼らがサウンドの中心です。そこにロンドンを拠点とするクラブ・ジャズの歌姫ベンベ・セグェや[re:jazz]にも参加していたリサ・バッセンジなどのボーカリストが加わります。

 収録曲はほとんどがオリジナルで2曲だけカバーがあります。ダーク・ボガード主演の「召使」主題歌「オール・ゴン」、イエジー・スコリモフスキ監督によるベルギー映画「出発」の曲がそれです。やはり映画が出てきました。イタリアですから。

 本作品のサウンドはボサノバ風味のジャズです。それも50年代や60年代の香りがするストレートなジャズ・サウンドが展開しています。しかし、やはり分類するとなるとクラブ・ジャズなんです。何をもってそう思うのかはよく分からないのですが。

 小川充氏は「クラブ・ジャズ方面からメインストリームに向けて発信された本格ジャズ作品として、後進に与えた影響はあまりに大きい」と評しています。ハード・バップやモードの頃のサウンドを彷彿させる作品がクラブ・ジャズから出てきた。

 しかし、やはりクラブ・ジャズなんですね。どこが違うのかと言われると説明に窮しますが、ジャズ黄金期の50年代60年代のサウンドとはやはり異なります。それに現在のジャズ・ミュージシャンのサウンドとも少し違います。感覚としか言いようがない。

 デジタルを経た世代のビート感覚を説明に使うのもありでしょうが、ここは極上のサントラを生んだイタリアの風景に説明を求めるのが気持が良いです。サントラを聴くように聴くのが一番しっくりきます。品のある美しい演奏はまさにイタリアならでは。

参照:「クラブ・ミュージック名盤400」(監修:小川充)

Other Directions / Nicola Conte (2004 Blue Note)